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動き出す言葉 [新隠居主義]

動き出す言葉 
  
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 日本語学校での活動を始めてもう15年超になるけど、学校で毎年行われる日本語スピーチコンテストは楽しみの一つだ。知り合った当初は日本語がほとんど話せなかった外国の若者が壇上で堂々と日本語のスピーチをする姿を目にすると胸に熱いものがこみ上げてくる。

 昨日はその日本語学校恒例の日本語スピーチコンテストの日だった。プログラムは午前と午後の部に分かれており、午後はどちらかというと初級者の発表の場だが、日本語の語彙が少なくてもそれだけに一つ一つの言葉に対する彼等の思い入れは大きいので聞き応えがある。今は日本語が彼等の生活の中でも心の中でも有効な意味をなしてくる、いわば言葉としての日本語が動き始める時だ。

 テーマも様々。将来の夢から日本での人との出会い、ぼくらではなかなか気づきにくい点に気づかされる事もある。台湾からの留学生は、お店でお釣りをもらった時に店員がお札の向きをそろえて渡してくれたことに驚いていた。そう言われてみればそんなこともあるかもしれない。でもぼくらは、日常の中では見逃しがちだ。彼らと話して初めて気が付き、教えられることは多い。

 世界中が混沌としてささくれ立った言葉に満ち満ちている今、ここに居る若者たちの日本語はたどたどしいけど優しい言葉で満ちている。元気を貰った一日だった。

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 ここ数年でぼくの行っている日本語学校でも留学生の出身国の構成が大きく変わってきている。ずっと以前は中国、韓国そして台湾などからの留学生が多かったのだけれど、今は以前は少なかったベトナムやミャンマーやネパールなどからの留学生の比率が急激に増えている。

  以前に比べてアルバイトをする学生の比率や時間も増えているようにも思う。留学生達とは色々な話をするけど、ぼくは彼らに日本のいい話ばかりをする気はない。いい話ばかりをしたって、アルバイトをするようになれば嫌な思いもするだろうし、幻滅することもあるに違いない。ただ彼らがその中で誤解をしたり、一人で苦しむような思いをさせたくないと思っている。

 よく日本人は知日派と親日派を混同していることが多いけれど、現実には日本語ができて日本の事を外国に住んでいる他の外国人よりもよく知っているからと言って、必ずしも日本の事を良く思っているとは限らない。日本を知っているからこそ日本が嫌いになった外国人だって少なくはない。歪(いびつ)な海外研修員制度などで過酷な扱いを受け日本が嫌いになって国に帰る外国人も少なくはないはずだ。

 これから日本の社会は望むと望まざるとにかかわらず益々国際化していかざるを得ない。不都合なことを覆い隠して自分の国を良く見せようとするより、まず、知れば知るほど好きになるような国を作る努力をすることが大切だと思う。それが結局はぼくら自身も住みやすい社会を作ることにもつながると信じている。


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 *ぼくは今から約50年程前の1970年代、ドイツに人手不足を補うためガストアルバイター(Guest Worker、国際的出稼ぎ労働者)として大量のトルコ人、ユーゴスラビア人などの外国人が流入したときの社会の混乱を目の当たりにしています。

そのガストアルバイターのお陰もあってその時ドイツは大きく発展したのですが、その後の景気後退時にもドイツが一時的と考えていた外国人労働者のほとんどは国に帰らずドイツに居住する〇〇系ドイツ人となって現在に至っています。結局ドイツの社会はそれを受け入れました。

さらについ最近のメルケル政権によるコントロールの効かない難民(一部非難民も含めて)政策によってドイツの社会状況は一変してしまい、多くのドイツ人がそのことに自分たちの文化面や治安面でも不安を覚えると同時に、それがきっかけでAfD等の右寄りの勢力が勢いづいているという現実があります。

ぼくの浅薄な見方ですが、これらは明確なコンセプトや確たる見通しがないままに経済的実利だけを求めたり、政治的アピールをするために生じた結果でもあるような気がします。もちろんドイツは社会が多民族化、国際化することによって以前よりもずっと多様な価値観を持つ広い視野の国になったことも事実ですが、これからもそうあり続けるかは誰にもわからないと思います。

日本の社会は時代の流れとして今、望むと望まざるとにかかわらず確実に国際化しつつあるにもかかわらず、日本語教育や外国人労働者の労働条件等も含めて脆弱な国際化インフラのまま、さしたる議論もなく、なし崩し的に変化が起こっています。この変化には本来国民の理解とコンセンサスが不可欠と思っていますが、マスコミもジャーナリズムもそのことにあきれるくらい無関心であることに大きな疑問を感じています。



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夏 遠ざかる景色 [新隠居主義]

夏  遠ざかる景色


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 今年の夏の天候は全くおかしい。と、言ってもそんなことを言い出してからもう随分時がたっていると思うのだけど…。身内だけの内々のの一周忌が行われたのも台風が関東に近づいている昼頃だった。前日には法事の間天気が持つか危ぶまれたけれどなんとか持ちこたえたが、空は怪しい雲行きだった。

 母が亡くなってから一年。短いようで、しかし自分にもいろいろな事があって長いようでもあった。もう98歳だったから大往生には違いないのだけれど、長生きしたということはそれだけこちらも長い時間を一緒に過ごしたということなので、居ないということに慣れるのには時間がかかってもしょうがないような気がする。

 ぼくは大多数の日本人同様言わば名ばかりの仏教徒だけれども、葬儀や法事などの仏教の仏事には人生の別れに際して、残された者を少しづつ新しい状況に慣れさせてゆく知恵のようなものが隠されていると思うこともある。もちろん法外な戒名や宗派ごとの形式にとらわれすぎた面もあるのだけれど…。

 ただ嘆き悲しむだけでなく、故人との距離が少しづつ、少しづつ遠くなってゆく、できればその遠ざかる景色の中で楽しかったこと、嬉しかったことが多く浮かびあがってくるような遠ざかり方が出来ればそれが一番いい。今は母がやっていたように、朝起きるとまず仏壇にお茶と線香をあげ過去帳を今日の日付にめくって簡単にお祈りをする。

 母がやっていたようには般若心経を唱えることはできないけれど、その日過去帳に載っている人の名前が面識のある人であれば心の中でその顔を思い浮かべて拝むと、優しくしてもらった叔父の顔や叔母の顔と共にその時の景色や光景が脳裏をかすめる。一年経って今ではやっとそれが日課になってきた。

 父の命日ももうすぐで、両親とも夏が命日なのだけれども、これから毎年のように今年の夏はおかしいなぁ、と言い続けるのだろうかといらぬ先の心配までしている。


   ■ 湯上りの 母の坐しゐる 秋彼岸  (阪田昭風)


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猫たちの夏 [猫と暮らせば]

猫たちの夏

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 夏は大好きな季節だったけど、歳をとると年々暑さが身にこたえてくる。これは地球温暖化で酷暑になっていることもあるけど、それだけではなさそうだ。もうすぐ母の一周忌がくるけど、父の命日も九月の暑いさ中。人生の中のいろいろな出来事によって、その人にとっての季節の意味も変わってくるものだなぁと感じている。

 猫たちの夏も年々同じかと思ってよくみると、それも変わってきている。ハルが来てから二度目の夏になるけど、ハルは若いだけあってマイペースで一日を過ごしているが、他の二匹のレオモモはそろそろ老猫の範疇に入るということもあってかぼく同様夏が辛い季節になりつつあるみたいだ。

 チンチラのレオは長毛種だから夏が一番きつい。夏には下毛は薄くなるけどそれでも言ってみれば真夏でもコートを着ているようなものだから大変だ。以前トリミングをしているペットショップに聞いたらチンチラは暴れるので毛をカットするなら全身麻酔をかけてやるというのでびっくりした。それ以来かかりつけのペットクリニックの先生がトラ刈りでもよければ、という条件で夏になるとバッサリとバリカンで刈ってもらっている。

 今年も先日刈ってもらったのだけれど、刈っている間レオを押さえているぼくの手は噛みつかれたり、引っ掻かれたりで血だらけになるのもいつものことだ。ちょっとした毛玉は家にあるバリカンで取るのだけれど、それでも大変。大騒ぎして親指位の毛玉を取ることになる。レオはクーラーが嫌いだからクーラーの風の来ない廊下に出てアイスノンにもたれかかって寝ている。夏は一日二回アイスノンを替えるのがぼくの役目だ。

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 モモは去年の夏は暑い二階のぼくの書斎で頑張っていた。ぼくが外出した時などエアコンを入れないと日中は37度にもなる室内でも机の上で寝ていた。子猫だったハルに自分の居場所をとられないように頑張っていたのかもしれない。

 今年の夏はそれはもう諦めたのか、朝ご飯を食べるとさっさと比較的涼しい寝室にこもってベッドの上で寝ている。しかし、そこも午後には暑くなるのだけどそれでも出てこない。心配になって見に行くと眠っているんだか、倒れているんだかわからないのでアイスノンを枕にしてあげるか、一時間くらいクーラーを入れてあげることもある。それでも夕飯の時刻になるとちゃんと居間の方にやってきてご飯を食べているから大丈夫なようだ。

 モモだけは夏も冬も夜は一年中ぼくといっしょに寝ているんだけども、今年の夏は何故かぼくが寝たころそっと寝室から出て行ってどこか他で寝ている。ぼくが急に寝相が悪くなったか、いびきが大きくなったかとも思ったがどうもそういうことでもなさそうだ。何だか毎日猫に寝かしつけられているようで複雑な気分だ。


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 マイペースのハルは若いだけあって真夏でもよく動き回っている。その時自分の気に入った場所が見つかるとこてっと寝て、瞬間で深い眠りに落ちるみたいだ。猫なのだけれど、ハルを見ていると自分も若いころはこうだったんだろうなぁと変に自分に引き寄せて感じてしまう。

 そのハルが昨日の夜、疲れたなぁ、という感じで扇風機のところまでやってきて扇風機を枕に横になった。猫の夏バテか。いずれにしても地球温暖化でこれから夏は益々過酷なものになりそうだ。今年の夏もあともう少し、猫もヒトも頑張らねば。


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