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バトリシア・ハイスミスだったんだ! [Retro-Kino]

バトリシア・ハイスミスだったんだ!

 今日久しぶりにビム・ヴェンダース監督「アメリカの友人」(1977)を見た。イジー・ライダー以来スクリーンからずっと姿を消していたデニス・ホッパーを引っ張ってきてブルーノ・ガンツにぶつけるなんてことは彼くらいしか考えられないかもしれない。(ブルーノ・ガンツは最近「ヒトラー最期の12日間」で評判になったらしいが残念ながらまだ見ていない。)

         

 ここのところハリウッド映画ばかり見ていたから、たまにヨーロッパ映画を見るととても新鮮な感じがする。
この映画は、病で余命幾ばくもないと思いこまされている額縁職人のヨナタンが、殺し屋に仕立てられてゆくという縦糸のストーリーに、ヨナタンとデニス・ホッパー扮するアメリカ人のリプリーとの奇妙な友情という横糸を編み込んでいる。「ベルリン天使の詩」(1987)がそうであったように、ここではハンブルグの街の風景が三人目の主人公の役をしている。僕も一度ハンブルグの安宿に泊まったことがあるが、画面に出てきたアルスター湖に面した倉庫街なんかはいかにも港町ハンブルグという雰囲気だった。

 画面のモチーフは赤色。不自然に赤く塗られた空、赤いシーツ、赤いカーテン、パリのホテルの赤い壁。それはもてあそばれている命の短さの暗示のように見える。普通のサスペンス映画を期待してみると少し肩透かしを食うかも知れない。もっともヴェンダースを観にくる客が"普通のサスペンス映画"を期待しているとも思わないが…。ストーリーの展開に従って、どうなるのだろうとドキドキする観客の心理を喚起するのがサスペンス映画だとすれば、この作品はそれだけではなく、もう少し重くのしかかるものを持っている。

 この映画の原作者をみたらパトリシア・ハイスミスとなっているではないか。(今頃、なに言ってるの、といわれそうだが…)
そのことを知っているミステリー小説もしくはサスペンス小説ファンはパトリシア・ハイスミス原作と聞いたらもう少しちがう映画を想像したかも知れない。僕は彼女の小説を読んだことはないのでよく分からないが原作はどんな作品なのだろうか。

 主人公がトム・リプリーなので、彼が主人公の五作シリーズのどれかだろうと思うがよく分からない。このリプリーを主人公としたハイスミスの映画には、この「アメリカの友人」の他にマット・デイモンが主演したその名前通りの「リプリー」(1999)と、一番よく知られているアラン・ドロン主演の「太陽がいっぱい」(1960)がある。

「リプリー」は観ていないが、「太陽がいっぱい」の方は大昔に観ておりルネ・クレマン監督の美しい画面とニノ・ロータの音楽が強烈に焼き付いている。モーリス・ロネの演技も素晴らしかった。こちらの方は貧しいアメリカの青年がフランス人の大金持ちのぼんぼんを殺して、金も女も手に入れようとするストーリーで、ヴェンダースのものとはまるでちがう。青年の若さ故の傲慢さと卑屈な野心とを軸として作られている。



 まぁ、映画はそれ自体で独立した芸術なので原作はどうあろうと関係ないのかも知れない。かえって感動した文学作品を映画化したものを観ると大体落胆することが多い。特に名作と言われる文学作品を映画化すると大作映画にはなるが名画とはならないことが多い。と僕は以前からそう思っていたんだけれど…。

そこらへんのことはアルフレッド・ヒッチコックなどは先刻ご承知で、彼のほとんどの作品の原作は二流の娯楽文学作品か大衆小説である。

ヒッチコック曰く。
「『罪と罰』のような名作は、それこそ、他の人間の創造的作品だからね。ハリウッドの監督は原作を裏切り、文学を台無しにするとよく言われるけれども、他の人間の創造作品に手を触れれば、それは当然そうなるに決まっている。それだけは私はやりたくないんだよ。
わたしはストーリーをただ一回読むことにしている。その基本的なアイデアさえ気にいれば、もうそれでいい。あとは原作なんか忘れてしまう。そして映画を生み出すことだけを考える。…
 …「作品」には「作者」がいる。その作者が三年も四年も費やして書き上げた小説は、いわばその作者の命そのものだ。それを、文学に取り組むなどと称して、安易に、いじくりまわし、やれ職人やら有能なテクニシャンやらが寄ってたかってでっちあげて、オスカーのノミネート作品に祭り上げたりする。真の作者はどこかにおしやられて、影も形もなくなってしまっているという有様。
まったくわけがわからんよ。」
 
(『ヒッチコック映画術』F・トリュフォー著 P57)
と散々だ。

 この話の流れからするとハイスミスのファンには言いにくいのだが、ヒッチコックはハイスミスの原作で映画作品を作っている。というよりハイスミスの作品を映画にしたのはヒッチコックが最初だと思う。僕の好きなサスペンス作品のひとつである「見知らぬ乗客」(1951)だ。

      

 筋書きは同じ列車に乗り合い知り合ったプロテニスプレーヤーのガイ(ファーリー・グレンジャー)にファンだと名のる乗客が近づいてきて交換殺人の取引を持ちかける。その男がガイが離婚したいと思っているがそれに応じない妻を殺す代わりに、ガイがその見知らぬ乗客の口うるさい父を殺すという取引だった。もちろんそんな提案は断って別れるのだが、ある日ガイの妻が何者かに殺されるところから歯車が回り始める。

ヒッチコックのこの作品はサスペンス以外の要素は全く排除されているから、観ていてもある意味で潔い。なにも知らない男が犯罪に巻き込まれてゆく、というのもヒッチコックの典型的なパターンだ。ヒッチコックがハイスミスの作品から拝借したのは「交換殺人」という卓越したアイデアでそれ以外の作品の要素はどうでもよかったのだと思う。
もしかしたらヴェンダースもハイスミスの「仕組まれた殺し屋」というアイデアだけをいただいたのかも知れない。ハイスミスはどう思っていたんだろうか。


*余談になるけど、上のハイスミスの1979年撮影の写真、手に吸い掛けのタバコを持っていますよね。これって当時はきっとカッコイイことだったんですよね。でも今はどうですかね。これを見ると時代は変わっている感じがすごくします。Retro-Kinoの映画にはタバコをかっこよく吸うシーンが多いんですが、その見方も段々変わってきますよね。

  
Kinoとは映画のことです、1970年代までのフィルムを僕はRetro-Kinoとよんで愛好しています


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Meridian

ご訪問&コメントありがとうございました。
最近、友人からコレいいよと「パリ、テキサス」を借りました。(感想はブログにあります)
ヴェンダースは、メグ・ライアンの「シティ・エンジェル」を見たあとで「ベルリン天使の詩」を見て、知りました。ヴェンダースの映画は、ガキにゃあわからんだろう、って言われているような映画ですね。私も少しはわかる年になりつつあるかな?
(ちなみに貸してくれた友人は2年間テキサスでの仕事を終えて帰ってきたばかりで、テキサスが舞台の映画ばかりを勧めます。)
ネコさんかわいいですね。うちにも10歳と17歳のネコがいますよ。どちらも元気です。
by Meridian (2005-09-10 14:59) 

昔、「太陽がいっぱい」をはじめてみたとき最後のシーンがなんとも言えませんでした。
アランドロンももう65才だとか。ということはその時は20才だったんですね。
by (2005-09-10 16:49) 

こうすけ

どうも、「風の会」のこうすけです。
ヴェンダースの「アメリカの友人」はまだ観たことがありません。
映画館でリバイバル上映されているのですか?
by こうすけ (2005-09-10 20:32) 

gillman

今回の作品は自分のVTRテープで見ました
レンタル屋でも見たことがあるような気がします
by gillman (2005-09-10 23:04) 

映画って全く関心のない分野ですが、gillmanさんの文を読んでいると、ちょっと見てみようかしらと思わせられますね。尤も「イージーライダー」って見たことありますね。「太陽が一杯」もひょっとしたら見ているかも・・・。
by (2005-09-11 11:26) 

shareki

「太陽がいっぱい」は強烈に覚えてます、
サインの練習してるシーンとか印象に残ってます。

昔の映画は味があるのが多かったですねぇ。
by shareki (2005-09-11 13:07) 

coco030705

こんにちは、お邪魔します。
「太陽がいっぱい」と「リプリー」の両方とも見ました。アラン・ドロンとモーリス・ロネはどちらもかっこよく、丁々発止というかんじでした。でも「リプリー」のほうは、マット・デイモンがもうひとつで、ジュウド・ロウだけが美しく目立っていて、ふたりの綱の引き合いが感じられなかったのが残念でした。
by coco030705 (2005-09-11 14:17) 

gillman

う~ん、やっぱりそうですか
今度「リメイクはオリジナルを越えるか?」という特集をやってみたいですね
by gillman (2005-09-11 15:44) 

女王猫

あたしはヒッチコック監督のものくらいしか記憶にありませんが・・
ウイザードでしたっけ?ねずみのとかー、カラスのとかー。。
ノーマンって主人公の名前で。。えーーとベイツホテルでもないしー
映画のタイトルは忘れましたが、とにかく身を縮めて恐る恐る観て
いました^^::
by 女王猫 (2005-09-12 15:18) 

gillman

えーと、ねずみの出てくるのは、WILLARD (1971)ですね僕も見ました
カラスはヒッチコックの「鳥」です
ベイツホテルはヒッチコックの「サイコ」の舞台になったホテルでノーマンはアンソニー・パーキンスが演じた主人公の名前です
ヒッチコックの鳥以来、ねずみとか「ワーム」なんてミミズが主人公の映画までできましたね
by gillman (2005-09-12 15:37) 

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