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夏 遠ざかる景色 [新隠居主義]

夏  遠ざかる景色


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 今年の夏の天候は全くおかしい。と、言ってもそんなことを言い出してからもう随分時がたっていると思うのだけど…。身内だけの内々のの一周忌が行われたのも台風が関東に近づいている昼頃だった。前日には法事の間天気が持つか危ぶまれたけれどなんとか持ちこたえたが、空は怪しい雲行きだった。

 母が亡くなってから一年。短いようで、しかし自分にもいろいろな事があって長いようでもあった。もう98歳だったから大往生には違いないのだけれど、長生きしたということはそれだけこちらも長い時間を一緒に過ごしたということなので、居ないということに慣れるのには時間がかかってもしょうがないような気がする。

 ぼくは大多数の日本人同様言わば名ばかりの仏教徒だけれども、葬儀や法事などの仏教の仏事には人生の別れに際して、残された者を少しづつ新しい状況に慣れさせてゆく知恵のようなものが隠されていると思うこともある。もちろん法外な戒名や宗派ごとの形式にとらわれすぎた面もあるのだけれど…。

 ただ嘆き悲しむだけでなく、故人との距離が少しづつ、少しづつ遠くなってゆく、できればその遠ざかる景色の中で楽しかったこと、嬉しかったことが多く浮かびあがってくるような遠ざかり方が出来ればそれが一番いい。今は母がやっていたように、朝起きるとまず仏壇にお茶と線香をあげ過去帳を今日の日付にめくって簡単にお祈りをする。

 母がやっていたようには般若心経を唱えることはできないけれど、その日過去帳に載っている人の名前が面識のある人であれば心の中でその顔を思い浮かべて拝むと、優しくしてもらった叔父の顔や叔母の顔と共にその時の景色や光景が脳裏をかすめる。一年経って今ではやっとそれが日課になってきた。

 父の命日ももうすぐで、両親とも夏が命日なのだけれども、これから毎年のように今年の夏はおかしいなぁ、と言い続けるのだろうかといらぬ先の心配までしている。


   ■ 湯上りの 母の坐しゐる 秋彼岸  (阪田昭風)


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