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さらばウィーン [gillman*s Lands]

さらばウィーン

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 初めてここウイーンに来てから、もう五十年近くになるんだ。横浜から船で当時のソ連邦(今のロシア)にわたりシベリア鉄道とプロペラ機を乗り継いでモスクワに入り、それからまた列車でポーランドを抜けてやっと辿り着いたのがここウイーンだった。

 南駅に着くとカフェで偶然今乗ってきた国際列車の運転手と同じテーブルに座ったので、彼の方から話しかけてきた。それがウイーンで初めて話したドイツ語だった。半分ぐらいしか分からなかったけれど、別れ際にわざわざキオスクでウィーンの絵葉書を買ってきて、ぼくにくれた。

 当時ぼくはまだ二十代の初めの頃だから体力はあった筈なのだけれど、ウィーンに入ってから水にあたったのか共産圏から自由圏に入って緊張が解けたのか、下痢が続いて二日ほど寝込んでしまった。三日目の朝に腹ぺこのお腹を抱えてオペラ座の前のリンク通りの地下道を彷徨ってる時に、何処からともなく漂ってきた焼き立てのパンの匂いを、嗅覚の無くなった今でもはっきりと覚えている。それは今でもぼくの中でウィーンを象徴する香りになっている。あれからもう五十年近く…。


 とまあ、今はアルベルティーナ美術館のカフェにカミさんと座ってまったりとビールなんか飲んでいるけど、今回日本を出る前々日には台風の避難勧告を受けて避難所で一夜を明かして、なんかそのままバタバタして…。よく来られたものだ。洪水に遭って辛い思いをしている人も多いのに申し訳ない様な気持ちだけれど、ぼくの手術やらでもう二回も延期した上でやっと出発という事で、こちらも一筋縄ではいかなかった。

 ウイーンは若い頃初めて触れた西欧の大都市で、当時の東側のモスクワともまた雰囲気は違っていた。その後日本に帰ってきてからも学生時代にはウイーン少年合唱団の日本公演の通訳のバイトをしたり何かと縁もあってウイーンは今でも好きな街だ。それ以来何回か来ているけど音楽あり、美術館ありで何日居ても飽きない。ドイツ語も五十年近く使っていないから殆ど忘れてしまったけれども、思い出しながら旅をするのも悪くはない。

 今回はカミさん孝行のつもりで二人で来たけど、カミさんの希望はそっちのけで結局ぼくの観たい美術館辺りで引き回してちっともカミさん孝行になっていないと内心反省しているのだけれど…。とはいえ美術ファンにとってこんなチャンスはめったにない。というのは今ウィーンの3つの美術館でそれぞれ魅力的な特別企画展、それも大規模なものが3つも開かれているのだ。

 第一が美術史美術館での「カラヴァッジョ&ベルニーニ展」、第二がアルベルティーナ美術館での「アルブレヒト・デューラー展」そして最後がレオポルド美術館での「リヒャルト・ゲルストル展」だ。各々の美術館の常設展はもちろん十分とはいかないけど何度か観ているが特別展は今だけの展示でいわば巡りあわせみたいなものだ。駆け足だけれど幸い今回は全ての特別展を観ることができた。美術館の帰り途重い図録を抱えながら、フト、ぼくも歳が歳だからウィーンもこれが最後になるのかもしれないと思った。だとしても今回は良い巡り合わせだったと思う。


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