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グリンツィング徘徊 [gillman*s Lands]

グリンツィング徘徊

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 帰る前の日になって、やっぱりウィーン郊外のハイリゲンシュタットに行きたくなった。前回ウィーンに来た時ヴァッハウ渓谷まで遊びに行った帰り鉄道でKrems(クレムス)からHeiligenstadt(ハイリゲンシュタット)に出たので寄りたかったのだけれど、結構疲れていたのでそのままウィーンに戻ってしまった。

 ハイリゲンシュタットに行きたいと思ったのは、50年近く前に初めてウィーンに来た時に宿を探してそこら辺をうろついたことがあって、また行ってみたくなったのだ。それにハイリゲンシュタットの近くのグリンツィング地区にはホイリゲが多いので、最後の晩をそこで飲んだくれて過ごしたいというのが本音。(帰ってきてから調べたら1970年にハイリゲンシュタットを訪ねたときの日記があった。↓)

 ■1970・5・4 ウィーン 晴
 朝8時頃ユースホステルを出て、シュネルバーン(国電のようなもの)とシュトラーセンバーン(路面電車)を使って、ハイリゲンシュタットに行く。英語やドイツ語で何回も何人にも聞いて、やっとベートーベンの住んでいたエロイカ・ハウスにたどりついた。

 中は修理中とかで大工の他は誰もいなかった。家の前に立っていた女の人に聞いたら、話は半分位いしかわからなかったが、どうやら僕なぞベートーベンを知っているはずがないというような口ぶりであった。

 宿を探しながらグリンツィングまで歩いてゆく。味わいの深い街だ。近くのレストラン「グリンツィンガー亭」で食事をする。いたる所に杉の小枝を軒先に下げたホイリゲがある。…

 ということで、今回は3時からウイーンでペーター教会のオルガンコンサートを聴いた後カミさんともう一人年配のご婦人を伴ってシュテファンプラッツから地下鉄に乗ってショッテントーア駅まで行き、そこから38番のトラム(路面電車)に乗ってグリンツィングに行った。終点で降りてメイン通りに出たけれど、どうも様子が違う。もちろん50年前だから記憶も殆どいい加減なものになっているのだけれど…。

 そのうち気が付いたのは昔はハイリゲンシュタット駅で降りてグリンツィングに向かって歩いたのだけれど、今回はグリンツィングでトラムを降りているから要は逆コースになっているらしいということ。坂道を上がったり下りたり途中で人に聞いたりしたけれど、なにしろぼく自身が方向音痴なのであまり進展しない。そこらへんは50年前と少しも進歩していないのだ。

 但し、お陰で昔は通らなかったグスタフ・マーラーの葬儀が行われたプァル教会(Grinzinger Pfarrkirche)の前を通った。そのすぐそばに彼のお墓もあるのだけれど今回は一人ではないし脚も疲れてきたので、とにかくどこかのホイリゲに入らねばと、既に日が傾き始めていることもあって先を急いだ。そういえばあの教会でのマーラーの葬儀の様子を音楽家のシェーンベルクが絵に描いていて、その絵を先日国立新美術館で行われた「ウィーン・モダン展」で見たばかりだった。マーラーの葬儀の日は嵐のような雨模様だったという。



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 結局、昔歩いた路地や入った店のある辺りはずっと坂を下りた先にあることが分かって、途中のどこかのホイリゲに入ろうということになり、坂の中ほどにある良さげな店に入った。本来なら今頃の時間は観光客でここら辺はごった返しているはずなのだが、もうシーズンオフに入ったと見えて客は数人しかいなかった。

 入ったお店はBach-Henglという店で後でガイドブックを見たら出ていて、以前クリントン大統領も来たことがあると書いてあった。と言っても料金はいたって庶民的で白ワインを結構飲んで料理もそこそことったのだけれどかなり安かったのでこの店にして正解だった。きっとシーズン中はもっと高いのかもしれない。

 ぼくらが飲んでいるうちにかなり客も入ってきて、隣のテーブルに来た髭面の南ドイツのオジさん一行と意気投合してはしゃいで飲みすぎた感がある。その一家は毎年今頃この店に来ているらしい。各テーブルを回っているバイオリン弾きのオジさんがプーチン大統領そっくりなので、似てるねというとよく言われると苦笑いしていた。

 ジョッキで飲む白ワインはいくらでも飲めてしまいそうだったけど、まだ二人のご婦人を路面電車と地下鉄を乗り継いで無事ホテルまで連れて帰らねばならないので…。でも、やっぱり酔っていたらしくホテル近くの地下鉄の駅に着いたら出口を間違えてしまった。市立公園の冷たい夜風に吹かれながらほろ酔いの意識の中で「また来たいなぁ」とつぶやいた。


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猫を巡るアフォリズム Aphorisms on Cats ~その38~ お土産 [猫と暮らせば]

猫を巡るアフォリズム Aphorisms on Cats ~その38~ お土産

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 ■ 猫のいない人生はありうる、しかしそれはナンセンスだ。(ゲーテ) 
     Ein Leben ohne Katze ist möglich, aber sinnlos. (J.W.von Goethe)
      (A life without cats is possible, but noncense.)
  
 ぼくはどちらかというと旅行に行ってお土産の類は買わない方だ。旅行で撮った写真や旅行での体験自体がお土産だと思っているからそういう意味では爆買いもしないから、観光地の経済にはあまり貢献していないかもしれない。

 例外といえば行った美術館の図録や画集(これはバカにならないくらい重い)や、せいぜい気に入ったものがあれば、かさばらないピンバッジ等のミュージアムグッズ位なので、何かの具合で他の人のためにお土産を買うような事になるとハタと困ってしまう。

 ところが今回珍しく欲しいと思った土産物があったので買ってしまった。と言ってもごくお安いものなのだけれど…。ザルツブルクの郊外のヴォルフガング湖という湖のほとりに「白馬亭(Im WEISSEN RÖSSL) 」というホテルがあって昔一度訪ねたことがあるのだけれど、そこはオペレッタ「白馬亭にて」の舞台になったことで今は観光地になっている。

 そこで昼食を取った後、隣の土産物屋を見ていたら店先に猫の絵と猫に関する格言が描いてあるドアプレートが並んでいた。その一つが写真のやつだ。色々あったけどこれが一番気に入って裏返してみるとドイツ製だった。オーストリア製でもないし白馬亭ともザルツブルクとも関係ないけどやたら欲しくなって買ってしまった。

 家に残してきた猫たちが恋しいという自分の気持ちにぴったりだったのか…。帰ってきて調べたら、あのドイツの詩人ゲーテの言葉だった。(ドイツ語のsinnlosとは英語のナンセンスと同じで、猫のいない人生も在りうるけど、それじゃ意味がないね、といったことだと思います) ゲーテも猫好きだったのかな。

 ぼくらも歳が歳なので最近は旅行に来るたびあと何回とか、これが最後かとか考えてしまい、その後のじっと家で暮らす生活が頭を過るのだけれど、猫の頭を撫でながら日永一日暮らすのも、それはそれで悪くはないと思うようになった。猫とカミさんさえ居れば…。


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「白馬亭」の前。右隣の土産物屋さんのラックにこの猫格言のプレートが掛っていた。


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 *帰ってくると当たり前のことかもしれないですが、我が家はヤッパリ良いなぁと。猫と一緒の時間は毎日不思議な旅をしているようで飽きないです。昨日テレビを観ていたら今は空前の猫ブームらしく番組が子猫をいっぱい登場させてはやし立てていました。

でも、テレビがブーム扱いすると、今までもロクなことはなかったですねぇ。ブームは必ず去りますから、その時街に飼い主に見捨てられた可哀そうなノラ猫が増えないことを祈っています。

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さらばウィーン [gillman*s Lands]

さらばウィーン

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 初めてここウイーンに来てから、もう五十年近くになるんだ。横浜から船で当時のソ連邦(今のロシア)にわたりシベリア鉄道とプロペラ機を乗り継いでモスクワに入り、それからまた列車でポーランドを抜けてやっと辿り着いたのがここウイーンだった。

 南駅に着くとカフェで偶然今乗ってきた国際列車の運転手と同じテーブルに座ったので、彼の方から話しかけてきた。それがウイーンで初めて話したドイツ語だった。半分ぐらいしか分からなかったけれど、別れ際にわざわざキオスクでウィーンの絵葉書を買ってきて、ぼくにくれた。

 当時ぼくはまだ二十代の初めの頃だから体力はあった筈なのだけれど、ウィーンに入ってから水にあたったのか共産圏から自由圏に入って緊張が解けたのか、下痢が続いて二日ほど寝込んでしまった。三日目の朝に腹ぺこのお腹を抱えてオペラ座の前のリンク通りの地下道を彷徨ってる時に、何処からともなく漂ってきた焼き立てのパンの匂いを、嗅覚の無くなった今でもはっきりと覚えている。それは今でもぼくの中でウィーンを象徴する香りになっている。あれからもう五十年近く…。


 とまあ、今はアルベルティーナ美術館のカフェにカミさんと座ってまったりとビールなんか飲んでいるけど、今回日本を出る前々日には台風の避難勧告を受けて避難所で一夜を明かして、なんかそのままバタバタして…。よく来られたものだ。洪水に遭って辛い思いをしている人も多いのに申し訳ない様な気持ちだけれど、ぼくの手術やらでもう二回も延期した上でやっと出発という事で、こちらも一筋縄ではいかなかった。

 ウイーンは若い頃初めて触れた西欧の大都市で、当時の東側のモスクワともまた雰囲気は違っていた。その後日本に帰ってきてからも学生時代にはウイーン少年合唱団の日本公演の通訳のバイトをしたり何かと縁もあってウイーンは今でも好きな街だ。それ以来何回か来ているけど音楽あり、美術館ありで何日居ても飽きない。ドイツ語も五十年近く使っていないから殆ど忘れてしまったけれども、思い出しながら旅をするのも悪くはない。

 今回はカミさん孝行のつもりで二人で来たけど、カミさんの希望はそっちのけで結局ぼくの観たい美術館辺りで引き回してちっともカミさん孝行になっていないと内心反省しているのだけれど…。とはいえ美術ファンにとってこんなチャンスはめったにない。というのは今ウィーンの3つの美術館でそれぞれ魅力的な特別企画展、それも大規模なものが3つも開かれているのだ。

 第一が美術史美術館での「カラヴァッジョ&ベルニーニ展」、第二がアルベルティーナ美術館での「アルブレヒト・デューラー展」そして最後がレオポルド美術館での「リヒャルト・ゲルストル展」だ。各々の美術館の常設展はもちろん十分とはいかないけど何度か観ているが特別展は今だけの展示でいわば巡りあわせみたいなものだ。駆け足だけれど幸い今回は全ての特別展を観ることができた。美術館の帰り途重い図録を抱えながら、フト、ぼくも歳が歳だからウィーンもこれが最後になるのかもしれないと思った。だとしても今回は良い巡り合わせだったと思う。


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