SSブログ

旅先の夜 Hoi An [NOSTALGIA]

旅先の夜 Hoi An
 
DSC00839rs.JPG

 旅先の夜。ベトナム、ホイアン。生暖かい空気と、雑踏の響きと、光の波に酔いリアリティがとろけてゆくような熱帯夜。さっき飲んだビールの余韻に任せて暮れなずむトゥボン川の畔をブラついているが、夢の中をふらふらと歩いているようで何とも現実感が湧いてこない。

 この現実感のなさは酒や光の渦のせいばかりではない。そこにあるべき匂いの存在のなさがぼくの体験から現実味を奪っている。今ここでは川の両側に並び立つレストランや屋台の立ち上る煙から光の渦に負けないくらいの匂いが舞ってるはずなのだ。

 生暖かい空気と原色の光と飛び交う雑踏の音と入り混じった匂いがこの場の独特の空間を作り出しているはずなのだ。嗅覚を失くしてからもう随分と時間が経った。視覚で想像ができるものはできるだけ頭の中で補ってみる。
 

DSC00842 (2).JPG
 

  新橋のガード下の手招きするような焼鳥の匂い、柴又のゑびす家の鼻を擽るようなうな重の匂い、ウィーンの朝、オペラ通りの地下道のパン屋の匂い。どれも懐かしく頭の引き出しには仕舞われている。

 でもどうしても、東南アジアのこの状況の匂いが浮かんでこない。必死になって大昔のシンガポールや香港の時の体験を手繰ってみてもそれらしい匂いにはたどり着かない。ふと、浮かんできたのはもう50年以上も前にトランジットで一晩だけ過ごしたバンコックの夜の匂いだ。

 ホテルの前の油だらけの道路の向うに広がっていた雑然とした市場のような場所と少しすえた匂いにスパイシーな匂いが混ざり合って…。それはもちろん半世紀前のバンコックの匂いで、今のバンコック子が訊いたら怒るに違いない時代錯誤の記憶だ。

 現実に自分もその中に居るのに、自分の目の前を通り過ぎてゆく映画のワンシーンのような匂いのない世界。もちろん匂いではなくて、視覚のない世界、音のない世界など一つの感覚が欠けているマイナスワンの感覚の中で嗅覚障害は軽いと思われているし、実際にそうなのだろうけど…。それが今は自分にとっての現実なのだと思うようにしている。
 

 
Nostalgia07.gif
 
 *次第にフェードアウトするように匂いを失くしてもうかれこれ二十年近くになります。その間に手術が四度、もうこれを最後にしようと思いながら。しかし今も毎日嗅覚のリハビリを続けています。何度か光が見えてはすぐに消えていきましたが…。まだ諦めてはいません。

 **今回のコロナ禍で嗅覚障害の症状や後遺症に悩む人が増えて、皮肉にも嗅覚障害の辛さみたいなものが社会的にも少し理解されてきたような気もしますが、嗅覚障害にはガス漏れ感知や食品の腐敗感知やシンナーなど塗料の有害気化物吸引などの生活上のリスクが伴うことについてはまだあまり認知はされていないようです。

nice!(41)  コメント(4) 
共通テーマ:アート

nice! 41

コメント 4

Baldhead1010

外国旅行の余韻はもう忘れきっています。

コロナが収束してももう外国に行くことはないと思います。
by Baldhead1010 (2022-04-24 03:43) 

親知らず

ふと漂って来た匂いがきっかけで昔を思い出す事もあります。
でも人間に限らず家電製品でも年季を重ねると、少しずつパーツの不具合が増えてきて、それを受け入れつつ使うしか無いんですね。
残っている機能で残っている人生を精一杯楽しもうと思います。
by 親知らず (2022-04-26 08:20) 

coco030705

Hoi Anには2年前に行きました。ちょうどコロナで海外旅行ができなくなる直前です。関西空港で、乗客や誰もかれもが全員マスクしてました。どうなるのかなと思いながら、ベトナムへ。ホイアン、とても良い町でした。それから、ミーソン遺跡とフエにもいって、どちらも興味深い遺跡と史跡でした。ベトナムは2度いきましたが、とてもよかったです。お料理も口にあいます。
by coco030705 (2022-04-26 22:17) 

JUNKO

花やかな色彩が美しいですね。
by JUNKO (2022-04-27 21:25) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント