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[Déjà-vu] No.9 もの想う海. [Déjà-vu]

[Déjà-vu] No.9  もの想う海


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  …ここ2年ほど、私にとってサンタクルスという地名は特別なものだった。ここ二年…それは私が「檀」という作品に取り掛かっていた時期というのと同じことでもある。檀とは、作家の檀一雄の姓を意味するが、サンタクルスは、六十を間近にしたその檀一雄が、一年余り暮らした町なのだ。檀一雄はサンタクルスの海辺に家を借り、女中を雇い、酒場に出入りし、土地の人と付き合って楽しい日々を過ごした。「来る日、去る日」というエッセイにはこう書かれている。《短い一年のあいだに、これほど集約的で、これほど生一本な、友愛を浴びた時期は、ほかにない》…

  (沢木耕太郎「1号線を北上せよ」鬼火より/講談社)

  沖縄に行けなくなって、もう長いこと海を見ていない気がした。実のところそんなに長い間ではないのだけれど、もうずっと、という感覚がある。自分の撮った海の写真を見ていると色々なことが浮かんでくる。その中でもこのポルトガルのギンショ海岸の海は格別の思いがある。

 リスボンから殆ど真西に30キロほど行った北大西洋に面するギンショ海岸にぽつんと一軒だけホテルが建っている。昔の砦を改装してつくったホテルなのだけれど、そのレストランから眺めた海は一見どうということもないのだけれど、テーブルに腰かけてじっと見ているとじわじわと感慨が湧いてくる。

 視線をずらしてずっと右の方を見やると「ここに地果て、海はじまる」と詠われたヨーロッパ大陸の最西端のロカ岬がある。そしてその遥か先には檀一雄がいっ時暮らしたサンタクルスという小さな村がある。そこに檀が暮らしたのはほんの一年くらいのことだったらしいのだが、彼にしてみれば、もちろん書くために現実から距離を置くという必然性はあったものの、それは浦島太郎が竜宮城に暮らした日々のように淡い想い出の日々になったのかもしれない。

 ■…ポルトガルにやってきて、あちこちおよばれに出かけてゆく。例えば誕生日だとか、何だとか…。するとまったく例外なしに「コジドー」と「バステーシュ・ド・バッカロウ」というご馳走が出される。「コジドー」というのは「煮る」ということで、煮物は何でも「コジドー」のはずだが、客を呼んで「コジドー」といったら、大体様式が決まっている。

…「バステーシュ・ド・バッカロウ」は、干ダラとジャガイモとタマネギを卵でつなぎ、パセリを散らしながら揚げ物にした至極簡単な料理であって、これなら、はなはだ日本人向きだ。殊更「馬鹿野郎のバステーシュ」と聞こえるから、みなさんもせいぜい馬鹿野郎(干ダラ)を活用して、愉快なポルトガル料理を作ってみるがよい。子供のオヤッによろしく、また酒のサカナに面白い。…
 
(檀一雄著「檀流クッキング」冬から春へ/中公文庫)

 檀はサンタクルス村に滞在している時は自分の名前と同じというのが気に入ってかDaoワイン(ダンと読む)ばかり飲んでいたらしい。それはワインの銘柄ではなくて産地の名前らしいのだが、このホテルのレストランでそのダン・ワインのご相伴にあずかったのだけれど、さっぱりとして美味しい白ワインだったのを覚えている。

 ただ波の音だけが聞こえるこのホテルで落日を迎えるまで日なが一日ほろ酔いで過ごせたらいいだろうなぁ。サンタクルス村には今、檀が残した句の碑が立っている。

 落日を 拾いに行かむ 海の果て


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kuwachan

ポルトガルへ行った時に、干ダラとジャガイモのコロッケ食べました。
まさに日本人向きで、とっても美味しかったですし
これ以外のお料理も日本人の口に合うものが多かったです。
by kuwachan (2018-06-05 13:05) 

めぎ

私もポルトガルの海岸で、色々ともの思いにふけりました。
まだその話をブログに書いていないなあ・・・
by めぎ (2018-06-05 16:28) 

JUNKO

海を眺める、ただそれだけで思いは満たされるものですね。
by JUNKO (2018-06-05 16:52) 

coco030705

この海岸は、とても魅力的ですね。けっこう荒涼としたところなのに。なぜかしら。
by coco030705 (2018-06-05 20:15) 

テリー

ポルトガルまだ、行っていません。
いつか行ってみたいですね。その時は、海も見ないといけませんね。
by テリー (2018-06-06 11:00) 

ゆきち

若い頃、ロカ岬で最西端到達証明書をいただきました^^
眺めのいいホテルですね。
空が茜色から星空に変わるまでずっと海を眺めていたいです。
by ゆきち (2018-06-06 15:27) 

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