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小正月 [新隠居主義]

小正月

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  ■ 枯木に鴉が、お正月もすみました (山頭火)

 山頭火はお正月もすみました、と言うけれど本当はお正月はいつ終わるのだろう。山頭火がこの句を詠んだのは1月11日だけれども、ぼくが子供の頃は正月気分は今よりもっと長く続いていたような気がする。もっともその頃は週休二日制どころか、親父が仕事を休むのは月二回の日曜日だけだったように記憶している。そのもっと前は正月とお盆だけだった。

 その代りお正月気分は長かった。今年は曜日の巡りあわせが良かったらしく、サラリーマンは人によっては年末年始で一週間以上の休みが取れたみたいだけれど、当時は正月休みは曜日に関係なく正月三が日の三日間と決まっていた。年末も大晦日まで仕事をしていた。それでも、三日明けには「初荷便」と称したトラックが親父の工場に初荷の旗を立ててやってきていた。本当は初荷は正月二日なのだけれどぼくの子供の頃には仕事始めの四日あたりに来ていたように思う。

 親父は正月でも酒は殆ど飲まなかったけれども、仕事が終わると七日(なぬか)あたりまでは松の内ということで家族で花札をしたり、仕事も比較的早く切り上げていた。そんな正月気分がきっぱりと抜けきるのは小正月と言われた1月15日あたりの成人式やそのもっと前の時代の16日「藪入り」あたりでそれも過ぎるともう何の変哲もない日常が始まるのだ。今は祭日が多いので正月のイベント感は薄れつつあるけれども当時の正月の重みは今とは比べ物にならない程だった。

 冒頭の山頭火の句は昭和十年(1935)の正月に詠まれたものだと思うけれども、山頭火にとっては小正月を待つまでもなく正月はとうに終わっていた。昭和十年と言えば関東軍肝いりの満洲国の皇帝溥儀が来日し、ヨーロッパでは第一次欧州大戦の戦後賠償の厳しさに業を煮やしたアドルフ・ヒトラーがヴェルサイユ条約を破棄、ナチス・ドイツの再軍備を宣言していた。自堕落で呑兵衛の山頭火は日記には食べ物に愚痴るなどのんびりとしたような記述をしているけれど、その句には山頭火の本当の心根と時代の影が現れている。ぼくらの今年の小正月は後の時代から見たらどう映るのだろうか?

 ■ 一月十一日 晴、あたゝかい

 近頃の食物の甘さ---甘つたるさはどうだ、酒でも味噌でも醤油でもみんな甘い、甘くなければ売れないさうだが、人間が塩を離れて砂糖を喜ぶといふことは人間の堕落の一面をあらはしてゐると思ふが如何。
朝、浜松飛行隊へ入営出発の周二君を駅に見送る、周二君よ、幸福であれ。
前の菜畑のあるじから大根を貰ふ、切干にして置く、大根は日本的で大衆的な野菜の随一だ。
よい晩酌、二合では足りないが三合では余ります。うたゝね、宵月のうつくしさ。

   周二君を送る三句
 落葉あたゝかう踏みならしつゝおわかれ
・おわかれの顔も山もカメラにおさめてしまつた
・おわかれの酒のんで枯草に寝ころんで
・甘いものも辛いものもあるだけたべてひとり
 枯草を焼く音の晴れてくる空
枯木に鴉(からす)が、お正月もすみました
 送電塔が、枯れつくしたる草
 私の懐疑がけふも枯草の上
 時間、空間、この木ここに枯れた

   「其中日記(八)」より

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コメント 9

fumiko

小正月と聞くと、向田邦子、久世光彦、黒柳徹子、TBSを連想してしまう私です。今は昔、の感あり。懐かしい時代でしたね。
by fumiko (2013-01-12 23:16) 

engrid

鏡開きを済ますと、お正月もお終いに、そんな感をもちます
暮れからの、お台所仕事の締めくくりに、お善哉いただいて
今年のお正月の段取りを こころのうちに反省して
さて、ハレの日から日常の暮らしにと、気の入れ替えをしっかり
そんなことも思います
by engrid (2013-01-13 10:03) 

coco030705

おはようございます。
お正月というのは本当に不思議で、年が明けると心が改まる気がします。これは日本人の感覚なのだと思います。
お屠蘇をいただき、おせちやお雑煮を食し、花びら餅とお抹茶をいただく。本当にお正月という特別な日を過ごします。そしてお年賀状に目を通す。気持ちが豊かになるような気がします。初詣にも行き年頭の挨拶とお祈りをささげます。一連の行事が心を新たに清々しくしてくれるように思います。すばらしいことです。
十日戎が過ぎると、現実の生活が見えてきます。
今年は「日本人とは何か」ということを意識して考えながら暮らしたいと思っています。
by coco030705 (2013-01-13 11:07) 

Silvermac

遅い年賀どょうが来る1月5日くらいまでが正月気分です。
by Silvermac (2013-01-13 15:52) 

ナツパパ

我が家でも、小豆を煮て、鏡開きのまねごとをしました。
暮らしの句読点、良いものですね。
by ナツパパ (2013-01-14 10:18) 

kuwachan

私の子供の頃のお正月三が日の商店街は本当にひっそりとしたものでした。
七草粥や鏡開きのお汁粉を食べるとお正月も終わりかなと思います。
by kuwachan (2013-01-14 11:07) 

blanc

新年早々素晴らしい写真見れて幸せです。
今年も宜しくお願い致します。
by blanc (2013-01-14 12:36) 

aya

確かに昔のお正月と 重みが違いますね。
三が日が終ると、もう冬休みと言うだけです。現在は
いつもの生活の中で、お正月がある。 形だけになってきたように
思いますヽ(´・`)ノ
by aya (2013-01-14 16:11) 

ジル

木の枝ってずっと見てしまいますね~
少し不穏な感じ、写真面白いです。
山頭火は、枯れ木に止まる鴉を自分と見立てて詠んだのかな。
アーサー・ラッカムの絵にこんな場面があったなと思いだしました。
by ジル (2013-01-16 00:50) 

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