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逢魔が時 [新隠居主義]

逢魔が時

たそがれDsc04841.jpg

 暑さにちょっとうんざりとして、陽がかなり傾いたころを見計らって近くのコンビニに行った。空の光が赤みを増してさらに夜の藍色も迫ってきている。陽が傾いて空気が動き出した気配はするが、それでも湿気を含んだ空気が流れているといった方がいいような熱気がまだ残っている。道端の信号機の赤い色が熱気でぼんやりと滲んで見える。通りの向こうから子供たちの声が聞こえる。夏休みになってから、家にいても一日中どこかしらから子供たちの声が聞こえてくる。

 黄昏時になると街の様子が変わるような気がする。見慣れた景色がどこかちがう異次元の世界のように表情を変えることがある。昔の人はこの時間帯を「逢魔が時(おうまがとき)」と呼んだ。魔物に出会う時間だ。もとは「逢う禍(まが)」でよくないことが起こる時間という意味らしいが、逢魔が時の方が何となくホラーで今っぽい。統計的にも交通事故などが多い時間帯らしいが、昼の世界が夜の世界に入れ替わる潮目のときでもある。この時間帯に人は魔物を含めていろいろなものに出会う。

 子供の頃、暗くなるまで外で遊んでいると、人攫い(ひとさらい)に連れて行かれると親に叱られたものだ。事実ぼくたち子供の間では××ちゃんが人攫いにさらわれたらしい、等というまことしやかな噂が飛んだりした。もちろんそれはこっそりと引っ越した子供の家のことだったりするのだが… さらわれた子供たちが連れて行かれる先は、いつも旅回りのサーカス団と相場が決まっていた。だからぼくは縁日の日、西新井大師の境内にかかったサーカスを見に行って空中ブランコの女の子を見ると、ああ可哀そうにと思っていた。

 もちろんぼくらの子供の頃だって人攫いなどもう現実にはいるはずもなかった。親が遅くまで遊んで帰ってこない子どもを脅かすために言った言葉だろうと思う。しかし、その親たちの頭の片隅には、そのまた親たちから聞かされた貧しい頃の日本の記憶があるのかもしれなかった。昔、農村地帯で食い詰めた親が娘を 女衒(ぜげん)に売り渡すようなことが現実にあった。そんな親は近所に娘は人攫いにさらわれたと言い訳をしたことがあるかもしれない。また、そうやって自分を納得させていたのかもしれない。アジア等では今でも日常茶飯事のように起こっていることだ。日本でもそう遠い昔のことではない。

 原っぱで夢中になって遊んでいると、いつの間にか夕食時になっている。母親が「ご飯よ~」と呼びに来て、遊び仲間が一人、二人と居なくなっていく。なんかの拍子で自分だけ誰も呼びに来ないで、ポツンと原っぱの真ん中に立ちつくしたとき一瞬、あっ、さらわれるんだ、と思ったことがある。大声を出して、薄暗くなりかけた原っぱを抜けて一心不乱に家の方へ駈け出していった。夏の夕暮れはいまでも少年時代の匂いがする。

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 昔、スペインのグラナダの街に滞在したとき、夏の夜アルハンブラの赤い城を見下ろす丘に立つと夜風が心地よいすばらいし時間を過ごすことができました。もう夜の十時もまわろうというのに広場では子供たちが縄跳びをしていました。夏の夜の空気は子供たちにも昼間とは別の世界を垣間見せてくれるようでした。


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coco030705

この写真が「逢魔が時」そのものですね。
旅行でひなびた温泉地などに行くと、日が落ちてからあたりが
すっかり暗くなって、本当の闇に出会います。そういうとき、
夜の世界の不気味さを感じるものです。24時間明るい都会では、
なくなりつつある風景なのかもしれませんね。
by coco030705 (2008-08-15 19:26) 

リフソロ

自転車でこちらに走って来る黒い影は、後ろに浚ってきた女の子が乗っている。
車は何? と想像させられます。
by リフソロ (2008-08-18 10:47) 

みー

私にも同じ経験があります。なのでサーカス団というのはとても寂しい存在でした。小学校の低学年の時に、叔父がボリショイサーカスを見せに東京に連れて行ってくれました。その時にも、はあー、ロシアにも人攫いがいるんだなあ、なんてことを思ったものでした。
by みー (2008-08-18 17:28) 

kumimin

おはようございます。
「逢魔が時」昔はもっと暗かったから昼と夜の間のこの微妙な時間ってちょっとの間だからこそいろいろな想像も巡らせたのでしょうか?
でも、実際に禍々しきものが出没していたのかも?
今は現実の方が禍々しかったりするのでそう言うものも出てきにくくなったのかなあ?
by kumimin (2008-08-21 07:53) 

engrid

宮部みゆき氏が その時間帯を題材にしたお話を読んだことがあります
逢魔が時、、、なるほどの名付けですね
by engrid (2008-08-22 16:40) 

こぎん

面白いですね。私はスペインを描く画家の知り合いにその言葉を教えてもらいました。
描いた絵の中に夕暮れ時の絵があって・・・その絵から出て来た「刻」です。
自分が思っていたすごく不思議な時間帯に納得いく名称でした。

by こぎん (2008-08-25 08:14) 

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