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遠ざかるShowa [下町の時間]

遠ざかるShowa

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  明治時代大正時代という呼び方自体にはぼく自身はなんら違和感を持たない。しかし、昭和時代という呼び方にはまだいささかの抵抗感がある。活字やマスコミにもまだその表現がそんなに露出していないことも一因かもしれないが、自分の生きた時間が時代という大きな括りの中に埋没してゆくことへの恐れが多いのだと思う。しかし今、昭和は否応なくひとつの時代となりつつある。


 この間久しぶりにばあさんを連れて柴又の帝釈天にいってきた。今までは墓参りの帰りに帝釈様に寄ってゑびすやで鰻を食べてくるのが楽しみになっていたのだが、最近は墓参りをすると疲れてしまうのか、車いすで参道を歩くのが億劫なのか寄らずに帰ってきてしまうことが多かった。

 その日はばあさんの調子も良さそうだったので、長雨の合間をぬって柴又の帝釈様にいった。金町で水戸街道を外れて柴又街道に入るころには日が差してきた。久しぶりの帝釈様は人もまばらで静かだ。考えてみれば人でごったがえしているときにここに来たことはあまりない。墓参りに行くのは大抵平日だし、暮れに来るのは12月30日と決めているから、こっちが人ごみを避けて来ている形だ。

 参道の両側の店を車いすを押しながらゆっくりとみる。昼飯は今日はゑびすやではなく、参道の店先で天ぷらを揚げている大和屋にした。ここは店の中が雑然としているのがいい。壁には古びてセピア色になったフーテンの寅さんの写真が無造作に何枚も貼ってある。店の親父が天ぷらを揚げている後ろの客テーブルでは、小学生らしい男の子がノートを広げてなにやら勉強をしている。

 今日は都民の日だから東京都は学校が休みなのだ。勉強をしているのはこの店の子供だろうか、時々エプロンをしたお母さんらしい女性が宿題かなんかの世話をやいている。この間延びした時間の流れ方がいい。天丼をたのむ。この店の天丼のタレは真黒だ。その真黒なタレがしみ込んだ飯がとにかく旨い。

 昼食後また佃煮を買ったりして参道を歩くが、何しろ短い参道だらか五分も歩けば端に行ってしまう。日はまだ高い。そこで車いすでも行ける距離にある寅さん記念館に行ってみようということになった。以前一度行ってみたときにはあいにく閉館していたのでまだ入ったことはない。

 寅さんといっても、もちろん実在の人物ではないから伝記などがあるわけではない。そうではなくて記念館の中には映画「男はつらいよ」の舞台になった草団子屋「くるまや」のセットが作られている。28年間実際に使われていたセットらしい。その「くるまや」のセットの中に身を置くと言いようのない懐かしさに出くわす。ちゃぶ台が置かれた土間の奥の部屋。ぼくの家も菓子屋だったので、職人の匂いのするその空間がとてつもなく懐かしいのだ。

 館内はあざとい位に昭和の匂いがした。見ているうちに懐かしさよりも寂しさがこみ上げてくる。昭和はもう、こうやってショーウィンドウに飾られる時代になってしまったのだ。記念館を出て土手の上から江戸川の河川敷を眺める。そよ風が心地いい。ばあさんも久々にみる緑にあふれる光景にうれしそうだ。車いすにのったばあさんの前をジョギングの若者達が通り過ぎてゆく。

 帰り道、車が柴又街道を抜けて金町あたりで水戸街道に出たところでふと思い出した。あの日もちょうどこのあたりを運転していた。もっとも方向は今とは逆で千葉方面に向かうところだったが。1989年(昭和64年)1月7日の早朝。正月明けの土曜日、ぼくは前から予定されていた付き合いゴルフに向かうために車を運転中でここらへんにさしかかっていた。

 予想をしていたこととはいえラジオからそのニュースが流れてきたときには形容のしようのない気持ちに襲われた。「天皇陛下が崩御なされました」 それが昭和が終わった瞬間だった。あれからもう20年も経ってしまった。あのウェットな時代Showaは遠くにいってしまったのか。
 

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 *その朝の天皇崩御のニュースの具体的な表現は今は厳密には覚えていませんが、車の中でその知らせを聴いた時、一瞬周りの車の動きも止まったように感じました。もちろんそれは錯覚なのですが… ゴルフ場に着いたら、当然ゴルフ場のような遊興施設は自粛して閉鎖されていました。

 **その前の年の暮れに昭和天皇の重篤な状態が報道されて以来、忘年会を含めあらゆる遊びや祝宴・忘年会の局面で「自粛」という文字が飛び交い、日本中が沈潜した雰囲気に包まれていたのを覚えています。

 ***過ぎ去った時代を懐かしがるのはそれは人間の心情として当然のことだと思いますが、遠ざかったからこそ今、見えてくるものもあると思います。歴史を忘れっぽいぼくら日本人にとって冷静に振り返るということはとても大事なことだと感じています。

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コメント 6

kumimin

昭和、もう懐かしむ時代になってしまったんですね。
うちの娘はぎりぎり昭和生まれですが、「昭和生まれ」のくくりに入れられるのは抵抗があるみたいですよ=^^=
by kumimin (2009-10-06 16:12) 

icarus

はじめまして。
ご訪問&nice!ありがとうございました。
by icarus (2009-10-07 22:22) 

SilverMac

柴又には昭和の匂いが残っていますね。
by SilverMac (2009-10-14 12:28) 

すずめ

歌舞音曲なんて言葉を初めて知ったのもあの頃でした。
ふと気がつけば、平成は大正よりも長く続いているのですね〜
by すずめ (2009-10-14 18:55) 

kuni

初めまして、コメントありがとうございました。「遠ざかったからこそ、見えてくるものがある、、」は、とても共感できます。

 僕はそのひとつが、「素材を生かす」や「もったいない」の根底にある意識ではないかと思っています。
by kuni (2009-10-16 17:31) 

こぎん

自分の生まれ育った時代なので、特別愛着があります~。
長いのでそれぞれにイメージが違う時代でもあると思いますが・・・
都民の日って、懐かしいです。
カッパバッヂを買うと、その日都立の施設が無料になりましたね~。
友達をあちこち社会見学?に行った記憶が・・・・。
by こぎん (2009-10-18 06:38) 

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