SSブログ

死ぬなら今だ [新隠居主義]

死ぬなら今だ

Springgrnd.jpg

 と言っても、なにも今すぐ死ぬというわけではない。けど、どうせ一度は死ぬんなら今頃が好いなぁ、というくらいの意味だ。西行法師の歌「願はくは花の下にて春死なんその如月の望月のころ」のように昔の人だってそう考えていたのかもしれない。西行の歌は如月の望月というから旧暦の2月15日の満月のころの話だ。新暦でいえば4月の初めころだろうか。満月に照らされた満開の桜の下での往生を夢見るなんて、やはり桜は昔からぼくたち日本人に死を思い起こさせるのかもしれない。

 梶井基次郎の文にもあるが満開の桜のぞっとするような美しさは、花の宴の狂喜や妖しい夜桜に隠された狂気、そして短いピークを過ぎて駆け抜けるように一気に散ってしまう儚さなどいろいろな想いをわれわれにもたらす。考えてみれば桜の花が散ったって桜の木は残り、やがて青々とした葉をつけて夏を迎えるわけだけれど、散り急ぐ桜の花にわれわれが感情移入をするのは、美しいピークの直後で逝ってしまいたいという願望がぼくらのどこかにあるからだろうか。

 桜の花も散ってしまえば、またただの木としての一見退屈な日常が待っている。そこに桜の木があったこともすぐに忘れられてしまう。ぼくはアメリカのハッピーエンドの映画を見るたびに、次の日からあの主人公たちはどういう生活をしてゆくんだろうかと、いつも大きなお世話の心配をしてしまう。あんな波乱万丈の物語の後で普通の暮らしに耐えられるんだろうか、と。これはもちろん余計なお世話で人生の大半はメイン・エピソードが終わった後の方にこそあることなど、世の中をちょっと渡り歩いた者ならすぐに気がつくのだが。桜だって花のない時期の方が断然長いのだ。

 死ぬなら桜の咲くころなどと勝手で贅沢なことを言っているが、もちろんそんなわけにはいかない。お迎えはいつ来るかわからないのだ。しかし、最近のニュースを見ていると何百年後かには確実にそんな時代、つまり死ぬ時期を自分で選ぶ時代がくるな、という気がしてきた。生命工学が発達して、何たら細胞を培養すると心臓や目やあらゆる臓器が自分の細胞から作れる時代がそう遠くないうちに来そうなのだ。電気製品の部品のように痛んだ部分を取り換えて生き続けてゆくことも不可能ではない。その頃には老化のメカニズムも解明されてくるだろうから大変なことになると思う。

 そんな時代ではその人の寿命を決めるのは、どのくらい代替臓器を買い続けられるかという経済力と、いくつまで生きるかという本人の意思ということになるのかもしれない。いずれにしたって何億もの人間が何万年も生き続けるわけにはいかないから、自分の人生をどこで終わらせるかを選ばなければならない。これは結構つらい選択になると思う。来年の春先に桜の散る頃逝きたいと思っていてもその時になると、まてよもうちょっと、ひいひいひい孫が結婚するまで、とかきっとその欲は尽きないのだ。第一そんなに長く生きていたら桜の方が先に逝ってしまう。なにしろソメイヨシノの寿命は今のぼくらと同じくらいらしいから。

AG00333_.gif
logo2.gif

  *自然科学と社会科学の発達スピードの差は益々広がるばかりです。ぼくらはそろそろ自分達の臓器さえも再生しようとしている段階に入っているのに、片方では貧困ひとつなくせない、ということが起きています。遺伝子工学や電子工学ほどには経済学や政治学はスピードアップして発達はできないのでしょう。もしかしたら数百年経って寿命が飛躍的に伸びても、片や社会的な格差等が是正されていなければ、社会システムとしてできるのはせいぜいが臓器購入保険か臓器ローン程度のものかもしれませんね。

< Ansicht 05 SAKURA Chronicle >
 
 花冷え…2010/04/03
 花のあと…2008/04/24
 さくら散る頃…2008/04/18
 さくら吹雪 移動祝祭日のように…2008/04/06
  さくらさくら…2008/04/03
 さくら道…2008/04/02
 薄墨色の桜…2007/04/03
 桜散る…2006/04/19
  桜吹雪…2006/04/05
  春は来たけれど…2006/04/02
  病院の桜…2006/03/30

 足元を見る What's on earth


nice!(29)  コメント(12) 
共通テーマ:blog

nice! 29

コメント 12

aya

これは考える余地ありそうですね。
自分なら どんな時に どんな場所で、どんな花の下で・・・
写真を撮りながら、考えますヾ(´∀`*)ノ
by aya (2010-04-14 21:31) 

coco030705

周りでかなりの人を見送っているのに、さて自分のこととなると
皆目検討がつきません。いつ死にたいとかは考えたこともありませんでした。

でも、ロボットのように臓器を取り替えながら生きるということだけは、
したくないですね。
by coco030705 (2010-04-15 00:40) 

SilverMac

来年も桜を見るために生きる、それだけで十分です。
by SilverMac (2010-04-15 06:47) 

テリー

確かに、桜の満開を過ぎて、散りゆく桜をみながら、一杯酒を飲みながら、静かに死を迎えると言うのは、最高ですね。うちの母は、似たような心境でした。
by テリー (2010-04-15 19:01) 

たま

自分で死ぬときを決められたらいいのに・・・と思います。ってこんなこと思ってると罰があたりますね。
by たま (2010-04-15 20:20) 

るる

私も、こういうこと、よく考えます。
科学技術の進歩は、私たちに重大な課題をつきつけ続けますね。
それにしても、桜の妖艶なこと^^
by るる (2010-04-16 09:10) 

rantan-nya

桜の頃、なんかとても日本人らしい気がしてしまいます
散り際が好きなんでしょうけれど、実際、そんな風にあっさりと未練なく
死ねるのか、全く自信のないわたしです・・
by rantan-nya (2010-04-16 23:57) 

mimimomo

臓器を取り替えたりするなんてそれだけで痛い! わたくしは痛いの大嫌い~
だから病院にも行かないで、出来れば誕生日辺りに死にたいかも^^
by mimimomo (2010-04-17 19:17) 

blanc

昔から桜をみると何だかすごく悲しい気分になるのは
きっと前世で桜の木の下で悲しい出来事があったのかな〜なんて勝手に思ってます。
by blanc (2010-04-17 22:05) 

engrid

桜の花咲き始めると、
街の中にこんなにも桜の木があったのかしらと思います、
咲いてこそ、そうだったの改めてて思いだす
もうすっかり葉桜になりました

by engrid (2010-04-19 17:26) 

デザイン屋

散る桜 散らぬ桜も 散る桜
by デザイン屋 (2010-04-22 20:58) 

fumiko

桜の季節に散り、逝った西行、理想です。
by fumiko (2010-05-05 00:11) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント