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別れの曲 [新隠居主義]

別れの曲


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 昨日の朝、食事を終えて日本語学校に行く準備をしながら、ふとスマホの画面に目をやると一件の着信履歴が目に入った。食事の時はスマホを書斎に置いていたので気がつかなかったようだ。

 見ると、いとこの息子からだった。彼には泊まりがけで家を留守にする時などには猫の世話を頼んだりして世話になっているけど、向こうから電話がかかってくることは滅多にない。何だろうと訝りながら電話すると、昨日の夜、いとこが急逝したという訃報だった。

 いとこと言っても、子供の頃からずっと近しく育った女性のいとこのダンナだから義理のいとこなのだけれど、近所に住んでおり歳も同い年、それに音楽や落語や酒など趣味も一緒で一番気の合う親戚だった。昨年末にも忘年会をしてその時も楽しいひと時を過ごして別れた。

 それが突然の訃報。取るものもとりあえず、彼の自宅に向かうと病院から搬送された彼の遺体が和室に寝かされていた。枕元には好きだった焼酎の一升瓶とその日の朝刊に老眼鏡が添えられて置かれていた。彼の顔はこの前分かれた時のままで、今にも起きて話し出しそうな感じがした。聞けば半月くらい前、突然末期がんを宣告され余命いくばくもないことが判明したらしい。

 居間は彼が暮らしていた時のままに、彼が座っていたソファやテレビのあたりには音楽CDやDVDなどが山積みにされていた。ぼくと話しながら息子が部屋に残されていた郵便物や書類に目を通しているうちに、それらの間から一枚の封筒がでてきた。その封筒の中を見てみると何枚ものコンサートのチケットが入っていた。それは彼の好きなクラシックの演奏会の切符だった。

 今年の三月から九月にかけて行われる室内楽シリーズのコンサートの切符で、コンビニのチケット販売機から買ったものだ。買った日付を見ると、恐らくは彼が末期がんの告知を受ける直前に買っていたと思われる。その時点ではその未来の日付は彼にとっても確実な未来に見えていたに違いない日々なのだ。そのことを思うと胸が苦しくなった。

 そのチケットは結局ぼくが貰い受けてそれらのコンサートに行くことにした。残された家族もそれが彼の供養にもなるからということだった。もちろん、ぼくにだってチケットに書いてあるその未来の日付が確実に保証されているという訳ではないのだけれど…。何度か彼とコンサートに行ったこともあるけれど、今度は彼の想い出を胸に秘めて一人で聴くことになる。これからのコンサートの演奏はぼくにとっては彼との長い、長い別れの曲になると思う。



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コメント 3

ZZA700

感慨深いコンサートになりそうですね。
いとこ様のご冥福を心よりお祈り申し上げます。
by ZZA700 (2019-02-24 13:03) 

mimimomo

ご愁傷様です(足跡を残しました)
gillmanさんと同い年と言うことは、わたくしともほぼ同じくらい。
少し早すぎですよね。
by mimimomo (2019-02-24 15:05) 

coco030705

こんばんは。
大変お寂しいことでございます。心から、お悔やみ申し上げます。

いとこさんとはお親しかったようですので、gillman さんのショックは、如何ばかりかとお察しします。
突然の宣告とは、何と怖いことでしょう。自分の身にもそんなことが起こるとも限らないと思いました。そうなったら、一体どうしたらいいのか……。
だからと言って、性急に何かをするのはなかなかできないでしょうね。よく言われるように、1日1日を大切に過ごすということでしょうか。考えさせられました。
いとこ様のご冥福をお祈り申し上げます。

by coco030705 (2019-02-27 22:34) 

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