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輝ける闇 [新隠居主義]

輝ける闇

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 ■ 輝ける闇

 …ある日、一人の友人に作品のテーマを説明して、もしうまくいったらこういう感覚を表現してみたいのだといった。

 何でも見えるが何にも見えないようでもある。
すべてがわかっていながら何にもわかっていないようでもある。いっさいが完備しながらすべてがまやかしのようでもある。何でもあるが何にもないようでもある。

 友人はウィスキーのグラスをおき、それはハイデッガーだといった。ハイデッガーにその観念がある。彼は現代をそういう時代だと考えた。それを「輝ける闇」と呼んでいる、と教えてくれた。…

   (「あぁ、二十五年。」開高健/潮出版社)



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 後に開高健の「闇」三部作(三作目は未完)となるその最初の作品「輝ける闇」のタイトルを決めるくだりが上のような感じで、彼はそのタイトルを梶井基次郎の使った「絢爛たる闇」という言葉とのどちらかにしようかと迷ったらしいが結局「輝ける闇」の方にしたという経緯があるらしい。

 ハイデッガーが「輝ける闇」という言葉をどういう文脈の中で使ったのか哲学に疎いぼくには分からないけど、ぼくが注目したのは開高健の言った前半の方だ。読めば読むほど、それって正にインターネットの世界のようではないか。そういう状態を「輝ける闇」と称し、それこそ今の時代がそうなのだととらえると、それはそれで今の時代を掴む一つの切り口になるかもしれないと思った。

 彼の作品「輝ける闇」自体はベトナム戦争下における私小説的な色彩のもので、ハイデッガーの「輝ける闇」とは直接関係ないと思うのだけど、彼がこの作品に取り掛かろうとした時、彼の頭に去来したカオスのようなものは正に今日的なものだったような気がする。

 日常生活で日々インターネットに接していると、ある時はそれが民主的社会の守護神にも、知恵の集合体のようにも見え、またある時には逆に軽薄さ、愚かさの集合体のようにも見える。そこに流れている情報も本当のようで、嘘のようで、嘘のような本当のようで…。不都合なことを世間の目から隠そうと思ってもウィキリークスのようにどこかしらから漏れ出して来たり、それでいてサイバー空間の背後では企業、組織や国家の作為がうごめいている胡散臭さも漂っている。

 あらゆる面で情報は出てくるが、それが真実かどうかわからないし、それを見極めるぼくらの力と意欲は逆に弱まっているかもしれない。「検索」で得たぼくらの断片的知識はぼくらの頭の中でいつか再構築され真に活きた知識になってゆくのだろうか。この輝ける闇は既にぼくらの時代をすっかり覆っているからそれを使わないから、とか関わらないから、といって頭の上を過ぎ去ってゆくものでも、昔に戻れるものでもない。

 超大国の指導者がデルファイの巫女のように、たった140文字の舌足らずなメッセージを頻繁にだし、それに人々が翻弄されている。別の場では匿名性に隠れてむき出しになった感情が噴き出す。誰もがネットに繋がった映像デバイスを持ち歩き時代の証人になってゆくが、時には映像も巧みに編集され改ざんされ流布されてゆく。きっと、ぼくら一人ひとりが今、輝ける闇の中を手探りで歩んでいるのだ。輝ける闇がその輝きを失ったとき、本当の闇が訪れる恐ろしさも感じている。




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JUNKO

今日の1枚目とても好きです。モノクロは美しい。
by JUNKO (2017-06-06 22:27) 

coco030705

こんばんは。
今の世の中ほど怖い世の中はないなと思ったりします。私の考えすぎでしょうか。人類は大丈夫なのか、と思います。

by coco030705 (2017-06-10 23:45) 

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