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リアスの恋人たち [新隠居主義]

リアスの恋人たち

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  サクラが咲いた。ぼくらの沈んだ気持ちとは別に青空をバックにちょっと誇らしげに咲いている。季節がめぐり来ればちゃんとサクラが咲くということがなんて嬉しいんだろうと思う。サクラの花をまじまじと見ると、そのほのかな色合いが心の中に浸みてきてやっと心の中にも春が来たような気がした。これが本当の花見かもしれないな。

 サクラが咲いて少しだけ春の気持ちになりかけたところに昨日の夜、またかなりの揺れを伴う余震が来た。揺れの時間は短かったがベッドの上に居てなんか船に乗っているような嫌な揺れ方を感じた。先日の大震災以来、余震が続くのでぼくのスマートフォンのXperiaにも緊急地震警報のAPPを探してインストールしていたのだが、結構頻繁に鳴る。

 何回か調整して、設定を最大深度5以上、マグニチュード5.0以上、震源までの距離500Km以内にセットした。鳴っても揺れを感じない場合もあるが鳴ると同時に震源地、震度予測が出るし、暫定マグニチュードも表示されるので気持ち的には余裕がでる。昨日の夜の大きな余震もすぐマグニチュード7.5と出たので現地ではかなり揺れているだろうなと思ってテレビをつけたら宮城県周辺は震度6だった。南三陸町は大丈夫だっただろうか。

 東北地方に親類や知り合いがいるわけではないが、ぼくがとりわけ南三陸町の心配をするのには訳があった。南三陸町にはうちのばあさんがもう十年以上も前からワカメなどの海産物を取り寄せていた山内鮮魚店があったからだ。以前ばあさんに代わってぼくも何度か注文の電話をかけたことがあるが、その頃は家族経営的なお店の雰囲気が電話からも伝わってきた。

 ばあさんは毎年その店からワカメ等を取り寄せて、身内や知り合いの人達にあげるのが楽しみなのだ。「とても美味しいかったよ」と言われるのが殊のほか嬉しいらしい。鮮魚店は年々大きくなって最近ではインターネットの通販でも盛況のようだった。インターネットのことなどは、ばあさんには分からないから今でも昔通りの鮮魚店だと思っていたが、大きな会社になったんだよというと嬉しそうだった。

 大地震がおこって次々に惨状の情報が入ってくる中で南三陸町が全滅のようなニュースが入ってきた。その時点ではぼくらの頭の中ではそのニュースとあのお店のことはまだ結びついていなかった。あまりにもすさまじい光景が頭の中の東北に関する記憶をすっかりさらって行ってしまったようだ。次の日あたりになってからカミさんが「そういえば、ワカメのお店(ウチでは鮮魚店のことをそう呼んでいた)って南三陸町じゃなかったっけ」と言いだした。

 以前の注文書の控えを引っ張り出して見ると、あの山内鮮魚店はまぎれもなく南三陸町にあった。あわててインターネットで調べると鮮魚店の通販ページがみつかり、その住所も南三陸町だった。というより通販でのページのタイトルが「南三陸町株式会社ヤマウチ鮮魚店」とズバリそのものの表示になっていた。

 それから何日間も南三陸町の情報は入って来なかった。毎日のようにgoogleで検索しているうちに南三陸町「株式会社ヤマウチ 山内鮮魚店」店長日記の項目を見出しアクセスして見て唖然とした。鮮魚店はその全ての店舗と自宅兼店舗、工場が津波で跡形もないほど破壊しつくされ、その惨状が克明に写真に写れさていた。住宅兼店舗のあったところは床のタイルだけがかろうじて建物があったことを示しているだけの状態だし、工場はスケルトンだけの状態になっていた。

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 幸い店長の山内氏が避難して避難所でブログを立ち上げていた。そのブログには彼が撮った津波の瞬間やその爪痕を示す写真が載っており、車で逃げる人を乗せながら避難する様子などの記述も出ていた。ブログにはお見舞いや励ましのメールが多数あったようだ。避難所生活なのでメールは彼のiPhone一台で受けているということで、ぼくは数日たって落ち着いた頃を見計らってメールした。

 お見舞いの言葉とこれからも応援していることを伝えるとともに、できればご縁のあるところに支援をしたい旨を伝えた。ブログの写真を見ると本当に言葉も出ないが店長がブログに書いた「前を向いて歩こう」というメッセージが救いになった。店長は記事の最後を「負けてたまるか!」と締めくくっている。それは被災者じゃないぼくらが「元気を出そう!」というのとは重みが違っていた。

 偶然、今ぼくの手元には前回鮮魚店に注文した時サービスで送ってくれた真空パックの海産物セットのパッケージが残っている。「焼きカキ」や「焼きホタテ」や「ホヤみそ味」等など三陸の海の幸が一杯だ。パッケージには「リアスの恋人たち」というタイトルがついていた。

 インターネットという新たなツールを手にして、地方発進の企業が力をつけつつあった。若い経営者達が自分の土地に誇りを持ち、自分達が新しい時代の情報の発信元になろうという意欲が、このちょっと照れくさいようなその名前にもよく現れていたと思う。一日も早くまたぼくらの手元に「リアスの恋人たち」が届くように願っているし、応援もしたいとも思っている。


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koume

いくつもの困難を乗り越えてきた日本人だから、今回もきっと
乗り越えられると思っています。
特に東北の方たちは、粘り強くて、芯が強いですもの!
日本中で、支えていかなくてはと感じています。
by koume (2011-04-08 15:55) 

Silvermac

今回の余震で数名の方が亡くなりましたね。驚きました。
by Silvermac (2011-04-08 16:35) 

JOY

リンク先を拝見しました。
やはり「負けてたまるか。」という言葉がずしんと響きました。
噛みしめながら前を向きたいと思います。
by JOY (2011-04-08 17:04) 

坊や

リアスの恋人たち、再販できる時がそう遠くないのを願います。
その時は是非とも購入したいです。
by 坊や (2011-04-08 17:49) 

お茶屋

日本人として ぜひ乗り越えてまいりましょう!
by お茶屋 (2011-04-08 18:00) 

ふじかわ

一丸とならないといけないですよね
by ふじかわ (2011-04-08 18:50) 

めぎ

私の親戚も今回被災した地域で魚卸を営んでおりました。
今後どうなるのか・・・本当に心の痛いことです。
by めぎ (2011-04-08 20:49) 

kumimin

ここで被災していない私たちが下を向いていてはいけないですね。
前を向いて被災された方たちの背中をおせるようにがんばらなくっちゃ♪
by kumimin (2011-04-08 21:42) 

としぽ

昨夜は大きな余震だったですね。気の毒になりますね。
これで細かい余震が減ってくれれば良いと思います。
桜は日本人の心をいやしてくれますね。
by としぽ (2011-04-08 21:57) 

slosma

良い写真♪
by slosma (2011-04-08 23:00) 

coco030705

こんばんは。
桜のお写真、とてもきれいですね。こんな美しい桜をみたのも
久しぶりです。
「山内鮮魚店」の記事を読むと、気の毒で仕方ありません。
ほんとうにいいものを提供してくれるお店がこんな目に合うなんて。
でもぜひ立ち上がってほしいですね。そのときは私も注文しようと
思います。情報をブログでお知らせくださいね。
by coco030705 (2011-04-08 23:22) 

blanc

先日の余震大きかったみたいですね。
宮城の姉の所も即停電と断水になり
今朝やっと復旧したみたいです。
私も三陸のわかめファンなので
また美味しいわかめ食べれる日が待ち遠しいです。
それまで、みんなで応援しましょう!
by blanc (2011-04-09 22:44) 

engrid

前を向いて歩こう
負けてたまるか
こちらのほうが、励まされる言葉ですね
言葉の重みが違う。
薄っぺらな私を顧みました、

by engrid (2011-04-10 09:59) 

まぐろ

ご紹介いただいた山内鮮魚店のブログを見せて頂きました。
改めてとてもショックでした。
そのなかでもご主人の「負けてたまるか」の言葉は
心にしみました。
石巻に知り合いがいて、自分の家もダメだったのにスイスから送ったお金を(少ないですが)すべて石巻市に寄付してしまったので驚いたのですが、
今は気持ちがわかる気がします。
皆、みんな元の石巻が見たいのですね。
故郷である石巻が。
by まぐろ (2011-04-11 07:22) 

green_blue_sky

青空とさくら、いいですね。桜が映えます~
by green_blue_sky (2011-04-11 22:04) 

fumiko

株)ヤマウチのサイトにある綺麗な青空が救いです。
全ての店舗と自宅兼店舗、工場が津波で跡形もないほど破壊、
という状況のなか、ご無事で良かったですね。
これからが大変ですが、山内社長の再生への道が、
一日でも早く開かれますように!


by fumiko (2011-04-12 23:42) 

rantan-nya

三陸わかめ、再開されたら欲しいなぁ~ おみそ汁にします^^
原発の風評被害に巻き込まれないよう祈ってます!
by rantan-nya (2011-04-12 23:56) 

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