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天使たちの記憶 [Music Scene]

天使たちの記憶

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 少しずつ家の中の不要なものを整理して身軽にしようと思っている。先年、ばあさんのために家を少しリフォームした時、一階の納戸にしていた部屋のものを二階に移す必要があってやってみたら、こんなことは歳をとったらできないなぁと痛感した。

 そこで時間がある時に、カミさんと少しづつ棚や押入れを整理して捨てられるものはできるだけ捨てるようにしている。先日もカミさんが二階の押入れの中を整理していて何かを見つけた。「ねぇ、こんなものが出てきたわよ」 カミさんがぼくに手渡した色あせた封筒を開けてみると、これも黄色っぽく色あせたボール紙と写真が出てきた。

 良く見るとそれは色紙で、そこには一枚の写真が貼ってありその下に寄せ書きのように多くの名前が書いてあった。そこにはドイツ語で下のようなタイトルがついていた。
 「(gillman) さんへ、ウィーン少年合唱団と過ごした素晴らしい時間の想い出に、1972年」
もう40年も前のことだ。それは1972年、ぼくが天使の歌声といわれたウィーン少年合唱団に同行した長い日本全国演奏旅行を終えて彼らと別れる時に団員の寄せ書きでもらったものだった。

 その頃ぼくはまだ大学生だったが、ある日知り合いからウィーン少年合唱団の日本公演のスタッフのバイトをしないかと誘われた。その公演は現在でも不定期で続いているらしいが、現在のテレビ朝日(当時は日本教育テレビといった)が数年に一度ウィーン少年合唱団を招いて日本全国演奏旅行を主催していた。その演奏旅行は当時は北海道から沖縄まで長期にわたる大がかりなものだった。

 ぼくは試しに数日間やってみるつもりで、軽い気持ちで引き受けたのだが…  バイトの仕事はドイツ語の通訳とは言いながらも地方公演ではツアーに同行するスタッフでドイツ語がわかるのは一人だけなので、子供達の世話から指揮者と会場のスタッフの打ち合わせの立会い、果ては出たとこ勝負でいきなりテレビのモーニングショーの通訳までやらされた。要はドイツ語のできる使い走りのADみたいなものだ。

 やってみるとぼくの拙い語学力では何とも心もとなく、早々に辞めようと思っていたが、どういうわけか合唱団指揮者のアングルベルガー氏に気に入られて、結局東京以南の演奏旅行は全部付き合う羽目になった。もともと大学生で暇だからずっと一緒に全国を周るのは問題はなかったけれど、毎日が綱渡りだった。

 いま色紙を見ながら子供達の顔を見ていると、様々なことが脳裏に浮かんでくる。当時、普通は地方公演に行った街の結構良い洋式のホテルに泊まるのだが、たまに日本旅館に泊まって子供達を大広間に布団を敷きつめて寝かせることがあった。確か四国の時だったと思うけど、ぼくが子供達を寝かせているうちに日本の中学生の修学旅行みたいにまくら投げが始まってしまった。

 というより本当はぼくが子供達にちょっと教えたのだが、大騒ぎになってテレビ局のツアー・スタッフが飛んできたことがある。合唱団といっても要は8歳から13,4歳の遊び盛りの少年たちだ。何しろ子供達は大広間の布団にみんなで寝るのが嬉しくて、興奮していてとても寝そうもなかったのだ。浴衣を着こんだ子供達が前をはだけて布団の上を走りまわっている。

 そのうちぼくも入ってプロレスごっこを始めてしまった。しかし、子供に怪我をさせたらどうするんだと、きっちりと叱られた。でも、それ以来子供達は何かと言うとぼくを兄貴分として頼りにするようになった。怪我の巧妙、ではなく怪我もしなかった巧妙だった。

 もう大昔のことだから、もちろん大半は霧の向こうの出来事のように霞んでしまっている。でも、不思議にとても細かいことまで覚えているシーンもある。カミさんが見つけた一枚の色紙のお陰ですっかり忘れていたはずの天使たちの記憶が蘇ってきた。尤も、こんなことをしているからいつまで経っても身辺の整理ができないのだけれども…

   ~つづく~

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Silvermac

「天使の歌声」、CDで偶に聴きます。素晴らしい想い出ですね。
「続き」を楽しみにしています。
by Silvermac (2011-07-01 10:43) 

engrid

片付けをしていて手が止まるのが、写真
その時のことが思い出されて、なつかしくって
作業は、中断、そんな繰り返しで なかなか片付かないのです
by engrid (2011-07-01 17:20) 

ナツパパ

わたしも、何度も挑戦しては、そのたび返り討ちに遭っています。
片付けって本当に難しい。
by ナツパパ (2011-07-01 21:38) 

としぽ

子供の頃学校から聞きに行ったのを覚えています。
澄んだ声がきれいだったのを覚えています。
by としぽ (2011-07-01 21:57) 

親知らず

紙類が最も断捨離しにくい物です。
私も紙以外の物から攻めましたが、紙類は手強いです。
でも思い出すきっかけになった事も、良かったのではないでしょうか。
捨てるのもエネルギーが要るので、自分の身の回りの整理はしておかないと
残された家族が困りますね。
思い出しながら、少しずつ断捨離して下さい。
by 親知らず (2011-07-02 00:05) 

rantan-nya

今、彼らはどんな大人になっているんでしょう・・
片付けを始めても、こういう想い出のものに引っかかってしまって
結局、何も進まずに終ってしまいます^^;
by rantan-nya (2011-07-02 00:08) 

manamana

あの天使のような歌声と枕投げはイメージが合いませんが、
少年は少年と親近感を感じました。
by manamana (2011-07-02 06:18) 

fumiko

拙ブログのオーストリアワインつながりの嬉しい内容です。
ホイリゲ!出来立てワインの旨さ、陽気な明るさ、Goodですよね!
ドイツ赴任、加えて隣国オーストリアの天使たちとの関わり
素晴らしい思い出ですね、当時からgillmanさん名、由来は??

by fumiko (2011-07-02 13:44) 

sig

こんにちは。
これはスパらしい体験をなさいましたね。当時、ウィーン少年合唱団はよく聞いたものでしたが、そこにgillmsnさんがいらっしゃったんですね、きっと。
たくさんのサイン入り写真は、どんなにgillmanさんがみんなに頼りにされ、親しまれていたかを何よりもよく物語っていますね。青春時代のすばらしい宝物ですね。
by sig (2011-07-02 15:37) 

mimimomo

こんにちは^^
始めた時は単なるバイトでも、随分中身の濃い素晴らしい思い出が紡がれたのですね~
それでは片付け仕事は捗らないわけですね(^-^
大体思い出に引っかかると、その先は進まないのがお片づけ~~~
by mimimomo (2011-07-02 15:46) 

坊や

マクラ投げ、思い出すな~。 大概誰か一人が泣くか、先生に
叱られるかで治まるのです。 
彼らも、楽しかったことでしょう。 どちらにも良き思い出ですねー。
by 坊や (2011-07-02 16:36) 

hako

小学校の頃の音楽の先生に恵まれて、ずっと合唱をやってました。
ウィーン少年合唱団は、高崎の音楽センターで、聞いたことが有り
澄んだ歌声と寸劇の面白さが印象に残っています。
なんと素晴らしいバイトだったのですね。
高校の合唱部では、合宿の時の布団蒸しが恒例行事でしたが、
それこそ命がけで、ウィーンの少年達は、安全な枕投げで済んで
良かったですね。
by hako (2011-07-02 16:54) 

aya

凄い、gillmanさんウィーン少年合唱団と過ごされたことがあるんですね。
映画で見ましたが、本当に天使の歌声です。
片付けは、少しづつしていかないと 応えます。 母もちまちま
しているようです。
by aya (2011-07-02 20:30) 

コーミン

良い話ですね。
ドイツ語が出来るとは素晴らしいです。
by コーミン (2011-07-02 22:49) 

t-youha

天使たちの枕投げ、彼等の兄貴分であったgillman さん・・・・どちらも素敵ですね。
by t-youha (2011-07-03 15:40) 

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