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昭和五十年九月号 [あの時の文春]


30年の時を越えて… あの時の文春

Ansicht:  「改革」という空気 
 この年の9月号の文春に山本七平「空気の研究」という文章が掲載されている。これから五回にわたって連載されることになるシリーズの第一回目だ。これらは後日『空気の研究』というタイトルで単行本にまとめられ現在でも本屋で買うことが出来る。日本文化論としてはよく出来ていると思う。

 彼が言う「空気」とは、目に見えないが日本人が誰も逆らうことの出来ないもののことだ。その「空気」は集団を支配するが、それについて質問したり、議論したりすることはできない。そのことについて質問したりするだけで反対者と見られたり、周りから村八分にあったりする。誰もが心の中では何かおかしいなと思ったり、どういう意味かな、などと思ったりしていても口には出してはいけないものだ。

 例えば戦前の「愛国」なども空気になっていた。国を愛する心は誰にもあるのだが、愛国とは、とか本当に国を愛することはどういうことかなどと正面切って質問などできない。それだけで愛国者ではないということにされてしまうのを恐れて、誰も口には出さなかった。中身の無い「愛国」と言う言葉だけが一人歩きをし、多くの人々を苦しめてきた。

 この「愛国」と言う言葉を「改革」と言う言葉に置き換えてみるといろいろなことが見えてくる。「改革」とは、良くない事を改め変えることだから、そのこと自体には誰も反対はしないし出来ないはずだ。「改革」という言葉は、それだけでは何も表してはいない。「なぜ」、「何のために」、「どうやって」という文脈の中で使われて初めてその意味を持ってくる。現在の「郵政改革」を見てどうだろう。一つには「何のために」、「どうやって」という中身について、国民はその詳細についてはほとんど知らされていない。この問題についてはマスコミはその機能を放棄している。

 小泉首相の国会答弁を聞いていても、郵政改革の目的やその効果について質問されると、彼はそれだけで改革反対者の質問と決め付けてまともな答弁をしていない。彼は衆議院解散と同時に自分の改革への熱い心情を述べたが、改革の中身については何も語ってはいない。小泉首相は日本人がエモーションで動くこと、マスコミがそれを煽る事を十分に知った上で、改革という「空気」を作り上げてしまった。後日歴史としてこの改革が評価されることがあるかもしれないが、プロセスは評価することはできない。空気を廃して、もっと何をどうするという論議がなされるようにしないと本当の改革はできない。

 他の人が、今さら街頭演説で改革の中身について問題点や疑問をいくら訴えたところで、それはもはや「空気」に反することなので大衆に受け入れられる可能性は少ない。ということは勝てないということだ。今日、ラジオを聞いていたら、テレビにコメンテイターとしてよく登場する元新聞記者の鳥越俊太郎が、テレビを中心としたメディアが小泉首相の戦術に乗せられているのがとても気になるが、テレビではそのことは言いにくい、と言っていた。
ジャーナリストの魂はどこへいったのか。


昭和五十年九月号(1975)

①Cover Story
~革新再編成の風にそよぐ~
▽社会党葬送行進曲…上之郷利昭
-「大企業から金をもらった」といって共産党に追及される社会党。その理想と現実の乖離は、サラリーマンの初恋の夢をくだくばかりだ
-「独占資本を倒す…」と社会党はいう。しかしその社会党は資金のかなりの部分を大企業にあおいでいる。このタテマエとホンネの相克こそが同党の大弱点だ。"ニミ自民党"型ともいうべき社会党の金脈と、そこから派生する不可思議な体質とを徹底調査、解剖し、あわせて野党共闘再編成のなかでの社会党の命運を冷静厳密に見つめた報告書がこれだ!
 *かって国民は自民党と社会党という二大政党が拮抗した力を持つ社会を夢見た。しかし社会党がずっと掲げていた「自衛隊違憲」、「安保反対」を村山内閣で政権につくとあっさりと翻意してしまい、結局目指すところへ時間をかけても国を持ってゆく方法論については何も考えていなかったことを露呈してしまった。反対するだけの党に国民が三行半を突きつけたのはこの後である。

②Main Articles
▽社会主義の中の資本主義…草柳大蔵

-「左向けッ右」の東欧諸国を歩いて考えたこと
▽定年とは何か…<対談>鶴見俊輔、岡田誠三
-サラリーマンに不可避の老いと定年の厳しい現実にどう立ち向かうか
~国を憂うるの記~
▽三木首相との三時間半…船橋聖一

-逃避、無関心はファシズムの危険な温床だ
-政治における新しいリベラリズムを確立するために
 *この後に自民党内ですさまじい「三木下ろし」が行われついに退くことになるが、三木首相は、昭和の「政治家らしい政治家」だったと思う
~タワリング・インフェルノより恐ろしい~
▽未来ドキュメント「大地震」…柳田邦男
-羽田空港、新幹線、超高層ビル群、高速道路、江東デルタ地帯で某日何が起こったか。これは客観的データにもとづいた地獄の未来図だ
-高層ビルの倒壊、新幹線激突、石油タンクの爆発、大火災。今、もし大地震が襲えば東京は必ずこうなる。このレポートで使われた数々のデータはすべてリアルなものだ!
 *あれから30年、都市の防災体制はどれだけ前進したのだろうか
▽UFOマニア全員集合…<座談会>丸山健二、南山宏、半村良、黒鉄ヒロシ

③Others
空気の研究…山本七平

-反抗すれば村八分になる"空気"という権威
▽呪われた共和国…加瀬俊一
-カップ一揆は挫折しインフレ狂躁曲が鳴った
▽「京都に原爆を落とすな」…オーテス・ケーリ
-ウォーナー博士が恩人と言う伝説を追う
▽古代釣りの愉しみ…開高健
-縄文時代の釣鈎でスレッからしの魚を釣った
▽「マンモスアパート」の名士たち…玉井勝美
-詩人や作家、野球選手達と暮らした17年の哀歓
▽国際劇場と赤線の町…野坂昭如
-かって憧れ住んだ町の桧舞台をついに踏んだ

④連載小説
-「少年賛歌」…三浦哲郎
-「海は甦る」…江藤淳
⑤Special
第73回芥川賞発表
-「祭りの場」…林京子
-「営巣記」…小沢冬雄

(*)/Ansichtは筆者のコメント、他は文芸春秋の見出しの原文ママ


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