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街の夕焼け [新隠居主義]

街の夕焼け

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 「ねぇ、外見てごらんなさいよ。すごいわよ」
カミさんが夕餉の支度をしながらぼくに言った。テラスの窓越しに西の空を見上げると、ほんとに燃えているような空。オレンジと赤紫と黄色が複雑に入り混じって炎の色を再現していた。

 「ほー、すごいな」といってぼくはスマホを持って家の前の通りにでた。とても不思議な感覚で、普段の何の変哲もない通りがまるで違う場所のように見えている。暫くして目の前を猫がのっそりと横切ってゆくことで、いつもと同じ場所なのだと気づかされる。でも、その猫もその後じっと空を見上げていた。

 そういえば、ここに今の街並みが建つまではウチの西側の窓からはずっとずっと先の空まで見渡せて、夏の夕刻窓辺にウチの猫が座ってじっと夕焼けを見つめていたことがあったのを思い出した。それから時がたって西の空が大分小さくなってしまったので夕焼けにもぼくの目がいかなくなっていたのだろう。今日の夕焼けは西の空がぼくの視界の中にまだあることを思い出させてくれた。


  ■ 雨晴れし 空の果てまで 夕焼くる (能美丹詠)



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 *リヒャルト・シュトラウス晩年(84歳)の作の歌曲Vier letzte Lieder(4つの最後の歌)の最後の一曲が日本語では「夕映えのなかで」と訳されることが多いようですが、原題のIm Abendrotを直訳すれば「夕焼けの中で」ということになります。

 ドイツの詩人アイヒェンドルフの詩に曲を付けたものですが、人生の最後に安寧の境地にたどり着き、夕焼けの中に死を感じるというような内容です。ジェシー・ノーマンをはじめシュワルツコップやヤノヴィッツなどの歌唱がYoutubeでも見られますので、よろしければ、ご一聴を。とても心にしみる曲です。



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寄る年波 [新隠居主義]

寄る年波


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 歳とれば金は無くなる、身体は弱る、増える別れに、減る出会い。と言ったことが身に染みる今日この頃だが、そうぼやきつつも何とか今日を乗り切らねばならない。先日趣味も同じで、同い年で仲の良かった近所のいとこが急逝し少し遺品整理を手伝っているのだけれど、その中で彼がここずっと愛用して聴いていたオーディオ装置を引き受けることにした。

 どちらかと言えば、ぼくの方も断捨離の段階でひと様の物まで引き受ける状態ではないのだけれど、遺族は音楽に全く興味が無いといっても彼の愛機をいきなり処分するのも何か忍びない気がした。彼の倅の力を借りて機材を何とか車に積み込み自宅に持ってきたけれど、それらを二階の自室にあげるのが一苦労。入院、手術前までにそこまではやったのだが機材が部屋に山積みのまま入院。

 退院してもまだ鼻には綿球が入っており、力んだりすると頻繁に出血する。ちょっとだけ今の装置の後ろを覗いてみようと機材を動かしたら、下のように手術直後のぼくみたいなスパゲッティ状態で見ただけで頭が痛くなった。これはセレクターでレガシーのVTRや8ミリVTRやレーザーディスクに加えて新たにDVDやAppleTVなど多くのデバイスを繋いだ結果。これをシンプルにしてスペースを空け、新たな機材を加えるのだけれど、口で言うのはたやすいが「力も根気も」ないととっかかれない感じ。


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 自分の中では体調が復調したらすぐにとりかかろうと心づもりはしていたのだけれど、でも、ちょっとだけ、と思って先日少し手を付けたら鼻血+腰痛で断念。なんてったって鼻に綿球が入っているから少し動いただけでも息切れがする。それで一日一作業と決めて少しづつ変えてやっとなんとか形になった。結局復調してからというのは、考えてみればそんなに待てるわけはなかったんだけど…。

 新たなフォーメーションはスピーカー+アンプの組み合わせで左側のぼくが使っていたTANNOYレクタンギュラーヨーク+DENNONの系統と右側に配置した彼のBowers & Wilkins(B&W)+Marantzという組み合わせになった。彼もぼくもイギリスのスピーカーが好きで、ぼくもそれまでは色々試してみたが今のTANNOYにしてからは同じスピーカーを45年も使い続けている。


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 とまぁ、外見は整ったのだけれど、一つ心配があった。それはTANNOYの低音が曲によってはビビることが多くなってきたことで、45年使い続けているいわば寄る年波のスピーカーなのでコーンかエッジが破損している可能性があったのだ。懐中電灯でサランの上からスピーカーを覗いてみたら案の定エッジが劣化して割れている。しかも左右両方とも。

 コーンは20年位前一度湿気でダメになってしまったことがあってその時本社に送り張り替えてもらっておりその時エッジも交換しているはず、しかしエッジは人によっては10年位しかもたないという人もいるくらいだ。決心して棺桶と異名をとる45キロ近くあるスピーカーボックスを腰を気遣い、鼻血がでないか心配しつつ久しぶりに開けると、布団にくるまれた38センチ同軸2wayのスピーカーが横たわっている。慎重にビスを外して正面から顔を見ると、見事にエッジがボロボロに破損してさらにカビのようなポツポツが無数に発生している。こりゃダメだ。

 ネットで探すと修理をしてくれる業者が数社あって、中にはこのスピーカーのように古いビンテージ型番のものをエンクロージャー(box)を含めて新品のようにフルレストアしてくれるところもあるのだけれど、片側42キロもあるボックスを2台輸送するだけでも目の球が飛び出るような金額になりそうだ。ぼくの場合自分の歳から言ってあと何年聴き続けるかということもあるし、彼同様音楽に興味のある身内ももういないので、金もないしそんなにコストをかけるわけにもいかない。

 幸い手ごろな価格でスピーカーを宅配便で送って修理してくれる会社があったので、そこにお願いするとこにした。ぼくもスピーカーもお互い寄る年波でいろいろとメンテが必要な時期だ。ぼくが入院して手術を受けたみたいに、スピーカーもひと月ほど入院して手術、元気な姿で戻ってきてほしい。昔の響きを携えて…。


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