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カラーの力 [新隠居主義]

カラーの力
 
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 それはぼくにとって殆ど衝撃と言っていいような出来事だった。正月の退屈しのぎにネットで見つけたアプリのお試し版をダウンロードして昔の、それも大昔の写真をカラー化してみた。先年99歳で亡くなった母の16歳の時の写真。アルバムからスキャンしてiPadに入れていた見慣れた馴染みの写真。もう85年も前に撮られた写真だ。

 その写真の中では、長い長い時間のセピア色の霧の向こうで母と思しき少女がはにかむように映っている。それはそれで母の生きた印として大事な証なのだと思って今でも大事にしている。だが、その写真に色が復活した途端、その写真の中の少女は時間の鎖を断ち切って、一人の生身の見慣れぬ少女として目の前に現れた。今までぼくが母と思ってずっと見ていた少女が霧の中から新しい姿でぬっと現れた驚き。

 そこには明らかに今までとは違う時間が流れている。たかが色がついただけでである。ある美術の先生によると、色には原初的な力があるらしい。子供の知育のスタートは、色を教え、色に反応することだし、幼児や児童の鑑賞教育でも最初に反応するのは色だという。なので昔の、特に自分に関係のある写真にカラーがつくとリアリティが呼び起こされるのも、この色の原初性がよみがえるからではないかと思われる、と。


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 今フィルムカメラの復権と同時にモノクロ写真が再評価されていてぼくも時々使い分けている。逆にカラーフィルムが出始めた頃は、いわば際物でプロからは一段低く見られていたようだ。カラー写真のパイオニアとみられていた写真家のソール・ライターはその頃のことを振り返ってこう言っている。

 「誰もがモノクロのみが重要であると信じていることが不思議でたまらない。まったく馬鹿げている。美術の歴史は色彩の歴史だ。洞窟の壁画にさえ色彩が施されているというのに...」(I find strange that anyone would believe that the only thing that matters is black and white.It's just idiotic.The history of art is the history of color. The cave painting had color...)

 もちろんモノクロ写真は今のカラーの時代にも表現手段としての強いアート性を持っているし、今も使われている写真撮影の文法の多くがこのモノクロの時代に培われたのだと思うけど、カラーというものもまた違った根本的な力を持っているんだなぁと感じた。写真家ソール・ライターの求めた「色の力」とはそう言うものだったのかもしれない。

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 しかし画像技術の進歩というのは恐ろしい程だなぁ、と感じた。87年前の母の写真、68年前のぼくの小学校入学の日の写真そして66年前のカミさん姉妹の七五三の写真がAIのおかげでワンクリックで蘇ってしまう。ピンボケの写真を修整する技術やディープフェイクといわれる見分けのつかない偽造写真や動画まで可能になっている。

 写真をただ趣味で撮っているぼくなんかには大きな影響はないのだろうけど、写真を仕事としている人たちにはとてもやりずらい時代なのかもしれない。でも、どこかで写真本来の姿と言うものが見直されて一度それに立ち返ることも大事かもしれない。これもソール・ライターの言葉なんだけど、彼の言葉はアマチュアカメラマンにも勇気を与えてくれるし、ぼくの大好きな言葉だ。

 ■重要なのは、どこで見たとか、何を見たとかということではなく、どのように見たかということだ。(It's not where it is or what it is that matters but how you see it.)

 ■魅力的なもの、興味深いもの、さらには美しいもの、を見つけると写真を撮る。よい写真もあれば、大した写真でないこともある。(When I look at certain thing,I find them attractive or interesting or beautiful,and I take pictures. Sometimes they're good,sometimes they're not good...)


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JUNKO

最近の印刷技術はすごいです。昔の写真を見事に再現して見せてくれますね。人物は特に女性はモノクロの方が美しく見える気がします。
by JUNKO (2022-01-05 20:41) 

としぽ

本年もよろしくお願いします。
モノクロは色を想像しますがカラーになると現実的になりますね。
昔のモノクロ写真が鮮やかによみがえるのは楽しいですね。
by としぽ (2022-01-05 23:44) 

親知らず

モノクロからどうやって赤や青だと分かるのか不思議です。
七五三の着物の帯揚げは、あの頃みんな赤ばかりだったので青だったとしたら、かなり御洒落ですね。
by 親知らず (2022-01-05 23:52) 

Baldhead1010

NHKの新日本紀行なんかもカラー化した映像で50年以上前のものを流していますが、解像度の違いは言わないとしても、感じが全然違ってきますね。
by Baldhead1010 (2022-01-06 03:49) 

横 濱男

今年もよろしくお願いします。
技術の進歩が凄いですね。。
by 横 濱男 (2022-01-06 07:00) 

ナツパパ

ごく自然にカラー写真になってますねえ、すごい!
たしかに、これは昔の写真じゃなくなってしまっているなあ。
わたしの手元にあるフィルムパックというアプリには、こういった機能はないみたいで、どこかで探して試してみます。
by ナツパパ (2022-01-06 09:21) 

krause

明けましておめでとうございます。
本年も宜しくお願い申し上げます
いつもnice押し逃げばかりで申し訳ございません。
by krause (2022-01-06 15:07) 

coco030705

なるほど、お母さまのお写真、カラー写真はなんだか最近の物みたいな感じがします。gillmanさんのも、奥様姉妹のも、着ているものは昔のファッションなのに、今の写真のような気がしますね。不思議。
by coco030705 (2022-01-06 17:42) 

めぎ

読みながらすぐ、先日のメルケルさんのお別れの儀式でのDu hast den Farbfilm vergessenを思い出しました。
カラーの力、凄いですね。
by めぎ (2022-01-06 18:31) 

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