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Alone but... [新隠居主義]

Alone but...

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 先日、将来を嘱望された若手の俳優が自死(自殺)をとげて世間を驚かせた。著名人の自死があるたびにテレビの無神経な報道に危うさと怒りを感じるのはぼくだけかもしれないけど、いつまで経ってもテレビというメディアは、特にワイドショーと称する番組は変わらないのか自分たちの社会的な影響というものにどれだけ無頓着なのだろうかと嘆息する。

 ちょっと息の詰まる話だけど…、こういう機会に自分の頭を整理する意味でももう一度考えてみたい。自死については、特に著名人の自死については社会的な影響が大きいことは今では常識になっていると思う。それは過去において日本ばかりでなく多くの国で後追いの犠牲者や統計的な自殺数の増加など無視できない影響を社会に与えることがわかってきたからだ。

 厚生労働省のホームページにも「自殺対策を推進するためにメディア関係者に知ってもらいたい基礎知識(2017年版)」が載っているし、それらは長年にわたるWHOの活動の成果でもある。それらの「やってはいけないこと」には例えば…

 ■やってはいけないこと
・自殺の報道記事を目立つように配置しないこと。また報道を過度に繰り返さないこと
・自殺をセンセーショナルに表現する言葉、よくある普通のこととみなす言葉を使わないこと、自殺を前向きな問題解決策の一つであるかのように紹介しないこと
・自殺に用いた手段について明確に表現しないこと
・自殺が発生した現場や場所の詳細を伝えないこと
・センセーショナルな見出しを使わないこと
・写真、ビデオ映像、デジタルメディアへのリンクなどは用いないこと

 ということが明確に書いてある。自死は著名人でなくとも残された家族や友人の人生をも辛くて暗いものにしてしまうものなのだと思う。ぼく自身も親友を自死で失い、大きな喪失感に襲われると同時に、彼を死なせないためにもっと何か自分には出来たのではないかという罪悪感のようなものにずっと苛まれ続けている。


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 ぼくは彼の自死の後体調を大きく崩したことや、それに加えて頸椎の手術のため長期入院を余儀なくされ、そのリハビリにも長期間を要するなど多くの事が重なり退職を決意した。長年勤めた会社を辞することはそう簡単なことではなかった。頸の手術をしたあとに今度は入院中にぼく自身がうつ病と診断された。親友の死、長い間の仕事のストレスとその後の喪失感などが原因らしいのだが、その頃のことはしっかりとは覚えていない。だが精神科医からはぼくが自殺を図る恐れが強いということでしばらくの間、看護師やカミさんが24時間見守りをする状態が続いた。これは後からカミさんに聞いた話であるが…。

 その頃のことをうっすらと思い出すと、ぼくもそうだったように本当は誰も自ら死にたいと思う人は居ないように思う。しかし何かがあって心の中では希望と絶望が目まぐるしく行き来して自分では中々うまくコントロールができない。ほんの少しのことでそれにしがみついて希望を繋いだり、逆に何をやってもダメだと全否定に振れたり、また例えば自分の近しい人や好きな著名人の死などが「希死念慮」というらしいのだけれど、いわば死への誘惑に火をつけたりするらしいのだ。

 ぼくの場合はカミさんの気持ちがぼくの心の芯に強く伝わってきたのと、精神薬によって自分の心がコントロールされることへの恐怖がその他の事を凌駕して、なんとか立ち直らなければという気持ちが湧いてきた。先ほどまで感じていた身の置き所が無いほどの苦悩、地獄のような焦燥感が薬を飲むと霧が晴れてゆくように消え去ってゆく。その安堵感と、それとは逆のある種の恐怖感はそれを味わったものにしか分からないかもしれない。

 特にコロナ禍で今のような唯でさえ不安な状況では心の内にどうにもならない苦悩を抱える人も多く、それは少しの無神経な刺激で希死念慮へと傾く危うさを抱えている。夕方のニュースではその若い俳優の自死の報道のあと番組の最後に申し訳程度に自殺防止ダイヤルの案内があったけれど、その前の部分では彼と交流のあった女性キャスター自身が涙を流して大きな悲しみを語っていたので…、まだ配慮が足りないと思った。

 自死の大きなファクターの一つに孤独感がある。今は誰にとっても親しい人とさえ会うことが出来ないという辛い時期でもあり、それはまた多くの新たな孤独を生み出しているかもしれない。そういう意味ではぼくらは今孤独の時代にいる。しかし、一方、逆にぼくらは今までぼくらの生活や命がいかに多くの、ぼくらが直接顔も名前も知らない多くの人々と繋がり、結びついてそれに支えられていたか、今骨身に浸みて感じているはずなのだ。また新たな方法で人々は今再び結びつこうと、もがきはじめている。ぼくももう一度、Alone, but...ということにしっかりと思いをめぐらせたいと思っている。どんなことがあっても、生きてさえいればきっといいことがあるし、明けない夜は無い。


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自殺対策を推進するためにメディア関係者に知ってもらいたい基礎知識(2017年版)」より

 ■やるべきこと
・どこに支援を求めるかについて正しい情報を提供すること
・自殺と自殺対策についての正しい情報を、自殺についての迷信を拡散しないようにしながら、人々への啓発を行うこと
・日常生活のストレス要因または自殺念慮への対処法や支援を受ける方法について報道すること
・有名人の自殺を報道する際には、特に注意すること
・自殺により遺された家族や友人にインタビューをする時は、慎重を期すること
・メディア関係者自身が、自殺による影響を受ける可能性があることを認識すること
  


WHO による自殺予防の手引き」より

 [誤解と真実]
1. 自殺を口にする人は本当は自殺しない。→自殺した人のほとんどはその意図を前もってはっきりと打ち明けている。
2. 自殺の危険の高い人の死の意志は確実に固まっている。→大多数の人は死にたいと言う気持ちと生きていたいという気持ちの間を揺れ動いている。
3. 自殺は何の前触れもなく生じる。→自殺の危険の高い人はしばしば死にたいというサインを表わしている。
4. いったん危機的状況がおさまって症状が改善すると、二度と自殺の危機は起きない。→いったん改善してエネルギーが戻ってきて、絶望感を行動に移すことができるような時期にしばしば自殺が生じる。
5. すべての自殺が予防できるわけではない。→これは事実である。しかし、大多数は予防が可能である。
6. 一度でも自殺の危険が高くなった人はいつでも自殺の危険に陥る可能性がある。→希死念慮は再び生じるかもしれないが決して永遠に続くわけではないし、二度とそのような状態にならない人もいる。
 



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ゆきち

若いのに丁寧で美しい言葉を話す素敵な俳優さんでした。
センセーショナルな報道、SNS上での好き勝手な憶測のオンパレードには辟易させられます。
私も親族、同級生、職場の同僚を自死で失ったことがあり、何か出来る事があったのではという想いが消えることはありません。
今回の件も決して美化しようとは思わないし、同時に理由は本人のみぞ知る、マスコミの騒ぎは空しく感じます。
追い詰められる前に「死」以外の逃げ道を見つけるサポートがあればと残念でなりません。
by ゆきち (2020-08-07 13:25) 

ナツパパ

マスコミはまるっきり順守してないんですねえ。
知ってはいるけれどこれも商売、と思っているのか、知らないのか?
ご自身の親族がもし...と言ってみても聞く耳持たないのだろうなあ。
by ナツパパ (2020-08-09 09:27) 

coco030705

私も、親しい人を自死で亡くしたことがあります。「何か自分にできることがあったし、もっとその人のことに気を配ってあげたら、防げたんじゃないか」といつも考えてしまいます。たぶんこの思いは自分が生きている間はずっと消えないでしょうね。
芸能界もわりあい、自死が多い所なのでもっと真剣に対策に取り組んでいただきたいものです。もう絶対、すばらしい役者を不慮の死でなくさないという意思が、業界には必要では。
昨日、郷ひろみさんのワンマンショーをEテレでみていました。郷さんは、自分の歌やダンスに納得できないものをずっともっていて、40代の終わりに決心してアメリカへ1年間歌とダンスを本場で学ぶために留学されたそうです。それで自分の、これからの道をはっきりと掴むことができたとか。
三浦春馬さんの立場とは違うのですが、やはり自分が今の生活に疑問を感じたら、休んだり別のことをやったり、あるいは今の仕事をやめて違うことをやってみるとかが必要なんでしょうね。三浦さんは農業をやりたいといってたそうなんで、そういうことがやりやすい業界にしないといけないと、強く思いました。
by coco030705 (2020-08-09 23:22) 

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