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公園図鑑番外編 夕日が沈んでゆく [gillman*s park]

公園図鑑番外編 夕日が沈んでゆく…  土井虎賀寿先生のこと

 
公園の空は広い
 なにもなくたって、この広い空があるだけでこの公園は素晴らしい。以前は僕の家の窓から空一面に広がる夕焼けや、沈んでいく夕日を見ることができたが、今は見ることができない。燃えるように空を紅に染め尽くす夕焼けもすばらしいが、上空から降りてくる深い藍色に囲まれながら、一片の雲に照り返しを残しつつ沈んでゆく夕日もまたすばらしい。葉の落ちた木のシルエットが晩秋を告げていた。

 沈んでゆく夕日を見ると哲学者の土井虎賀寿(どいとらかず)先生のことを思い出す。大学で先生のドイツ哲学の授業をとったことがある。先生はニーチェの大家なのでその話を期待していたが、突然アポリネールの詩を原語で黒板に書き出して解説するなど、僕にはいまひとつ授業の流れについてゆけないところがあった。しかし今思うと僕のようなぼんくら学生が先生の授業についてゆこうと言う考えが甘かった。結局、ニーチェについては卒業後しばらく、他の教授の自宅に通って教えを請うた。土井先生は青山光二の小説「われらが風狂の師」でも描かれたように異端児とも言われた先進の哲学者だった。僕が授業を受けたのは先生の最晩年の頃だが、そんな雰囲気はまだ残っていた。

 先生のデッサンやスケッチは独特の味をもっていることで一部の人にはつとに知られていた。僕が社会人になってしばらくして、ある時文芸春秋の巻頭のエッセイを読んでいたら土井先生のことがでていて、それで亡くなった事を知った。そのエッセイを誰が書いたかは忘れてしまったが、それは先生が亡くなる直前に著者が秋葉原の駅のホームで先生を見かけた、というような内容だったと思う。
大勢の人が行き交う夕暮れの総武線ホームで、先生はスケッチブックを手に、真っ赤な夕日を見ながら「ああ、夕日が沈んでゆく…」とつぶやいていた、という。ニーチェの「ツァラトゥストラはかく語りき」は、朝焼けの太陽に向ってツァラトゥストラが呼びかけるシーンで始まるが、先生は沈んでゆく夕日に向って何を呼びかけようとしていたのだろうか。


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コメント 11

レイン

「ああ、夕陽が沈んでゆく・・」という言葉そのままの写真ですね。最近では電線や鉄塔などのない空は滅多に見れなくなりました。
by レイン (2005-11-26 18:53) 

としぽ

きれいな夕日ですね。左の大きな雲が効いていますね。
良い瞬間を捕らえていますね。
by としぽ (2005-11-26 19:02) 

ccq

一瞬どこの国かと思いましたよ。いいなあー。
by ccq (2005-11-26 21:57) 

offbeat

はじめまして。この色合い凄く好きです。
by offbeat (2005-11-26 23:31) 

kane

ホント綺麗な夕日ですね。
雲と木のシルエットがいい感じです。
by kane (2005-11-27 00:28) 

mippimama

こんな雰囲気の夕方の風景大好きでえす♪
by mippimama (2005-11-27 08:40) 

mami

夕日、今の時期はあっという間に沈んでしまいますので、なかなか
良いチャンスに巡り遭えません。
綺麗に撮れていますね!
いつも、ありがとうございます。m(_ _)m
by mami (2005-11-27 10:46) 

Abraxas

エーッ!土井虎賀寿先生の講義に出席していたのですか?何と羨ましいことか!小生の手元に彼の著書「ツァラトーストラ・羞恥・同情・運命」岩波書店、(これは、1940年5刷発行(初版は、1936年)の本で、1964年に小生が高校生の頃古書店にて購入したものです。)がありますが、我々が大学生の頃その土井先生がまだ存命であったとは、夢にも思いませんでした。知っていたら、こっそり聴講にでも行っていたことでしょう。ツァラトゥストラといえば、登張竹風訳の「如是説法ツァラトゥストラ」も持っていますよ。夕日といえば、スイスのオーバーエンガーディーンにあるシルス・マリア村のニーチェの家に3度目に行った時には、黄金の夕焼けに遭遇して非常に神秘的というか、不思議な感慨に襲われました。(初めて行ったのは、1971年頃、2回目は1972年頃、3回目は、2002年でした。)その近くには、トーマス・マンやヘッセが泊まったという高級ホテルがありました。ニーチェの現代文学に与えた影響というものは、計り知れないものがありますね。彼の影響を受けた文学者も非常に興味深い人たちばかりですね。もうGMTで夜更けの2時25分です。赤ワインを飲みながらGillmanさんのblogを見ていたら土井虎賀寿という字が飛び込んできたので、びっくりしました。明朝はロンドンへ行きますので、これで失礼します。少し酔いました。おやすみなさい。Max Roachのソロのドラムも聴きましたよ。いつもより饒舌なAbraxasより。
by Abraxas (2005-11-27 11:36) 

ziziblog

文学とは縁遠いものの、このニーチェのツァラトゥストラをぱらぱらと・・・・。何じゃこりゃ、ちっとも分からず2,3ページを読んで紐でくくってしまいました(笑)
この本を理解されるgillman さんを尊敬してしまいます。すごいですね。
by ziziblog (2005-11-27 15:00) 

ichiro

ドボルザークの新世界を聞きたくなるような空ですね。。
by ichiro (2005-11-27 19:45) 

mayumi

まるで絵葉書のような一枚。
素敵な写真。
by mayumi (2005-11-27 21:13) 

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