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From Hand to Mouth [新隠居主義]

From Hand to Mouth

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 From Hand to Mouthというのは文字通り手から直に口へという事で「その日暮し」とか訳されることが多いみたいだ。手で獲った物を調理したり盛り付けしたりせずそのまま口に入れるという事で、生き方にそういう余裕がないと言う事を示しているのだと思う。

 でもぼくはこの"From Hand to Mouth"というフレーズを見ると何故かTwitterを思い浮かべる。Twitterは日本語の場合は基本的には1ツイートあたり140文字(英語などは280文字)とシステム的に文字数が制限されているようだ。

 それは文字数制限のないブログなどに対して、リアルタイム性や手軽な簡便性を重視している結果なのだろうと思うのだけれど、何かをちゃんと伝えようとするとその電報に毛の生えた位の文字数ではなんとなく「舌足らず」の感が否めない。

 ぼくにはTwitterが、その短さ故に目にしたもの、もしくは思い浮かんだものを、「思考」という過程を経ないまますぐ手に伝えて文字を打ち込んでしまう、いわばこの"From Hand to Mouth"の「手から口へ」ならぬ"From Eye to Hand"「目から手へ」みたいなショートカットのように思えてならない。

 食生活であれば「調理・料理」という人類が獲得した文化的にも重要なプロセスが必要であるように、刺激と行動の間の「思考」というやはり長い時をかけて人類が磨き上げてきたプロセスを余り経る事なく外に出てゆくようなものに思えて仕方ない。

 同じく文章で極限的に短い17文字の「俳句」というものがあるけど、それは決して思考というプロセスをショートカットするのではなく、逆に感覚、情緒、感情といったものを決められたルールの中で思考を通して突き詰めて文字表現へと昇華させてゆく作業なのでTwitterの短かさと比べることは出来ないと思う。

 さらにTwitterのリアルタイム性は文章の短かさと相まって目の前に起っていることを表現するとき手っ取り早く極端な、そして時には扇動的、扇情的な語彙を使用させてしまうリスクを常に抱えていると思う。思考の中には近代になって人類がやっとたどり着いた理性というものも含まれているから、そのプロセスをとばすということは直情的になるということでもあるかもしれない。

 さらに心配なのは世界中で政治の指導者たちがこのツールを使い出したという事だ。利点としては大衆にとっては雲の上の存在に近い政治指導者や権力者を身近な存在に感じさせ政治に関心を持たせるという意味はあるかもしれない。一方政治家の方からすれば、マスコミ等にややこしい質問をされたりもせずいわば一方的に都合の良い情報を発信できるツールとしてはうってつけのものを手にしたとも言える。

 しかもステートメントのように論理的に思考を張り巡らす必要もなく、短く手軽にできる。元来多くの人を言葉で動かす政治家は常にある意味での扇動的要素を持っているのだけれど、近代民主主義においては同時に説明責任つまり理を尽くして説明する責任を負っているということでそれは辛うじて制御されていることを忘れてはならない。それが担保されない、いわば言いっ放しの舌足らずの言葉が政治の世界でも行き交っている恐しさを感じているのはぼくだけだろうか。


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 *市井の一個人が外に向かって手軽に自由に意見を述べるツールを得たという意味ではTwitter等は大変重要な変革だとは思いますが、政治以外でもいわゆる「炎上」や「フェイクニュース」などという現象も見ていると匿名性に隠れた大衆心理とでもいう悪い面があからさまに現れているような恐怖感も感じます。

 おそらくこれは人類が新しく手に入れた「両刃の剣」ともいえるツールだと思います。例えば匿名性は全てが悪いわけではなく強権的な政治環境下では、それは大衆が意見や批判を率直に表明できるための最低限の担保条件でもあります。これらをどうやって解決して有効で有意義なツールにしてゆくかはこれからとても重要な問題になると思っています。

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ナツパパ

わたしもブログで記事を書いてい、ときおり思うのですが、
個人から情報を広く発信できるのは驚くべきことですよね。
しかも匿名で、発信内容に責任を持たなくてもいい、なんて。
発信者がいろいろと自戒しなくてはなあ、と思います。
by ナツパパ (2020-08-22 19:59) 

テリー

トランプさんが一番Twitter を有効的に使っていますが、信頼性がないときは、Twitter 社が警告を出すようになりましたね。

by テリー (2020-08-26 16:48) 

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