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晩秋 ~山陰~ [新隠居主義]

晩秋 ~山陰~

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 ■ 人物に対した時だって、対話はすべてファインダーの中にのみあるのです。裸眼レンズから目をはずすまでは、私だけの世界で、話が出来るなんて、写真する幸せみたいなものがファインダーの中に棲みこんでいるということを、いまさらのように実感として感じるようになりました。  (「アサヒカメラ」1974年7月号「写真作法7ノンプロ的撮影法 植田正治)


 ぼくは別に植田正治の熱烈なファンではないけれど、一度はこの植田正治写真美術館を訪れてみたかった。植田正治の写真もさることながら彼の生きた鳥取と言う土地の空気を凝縮したような美術館そのものにも興味があった。

 美術館はほんとに大山を前にした鳥取の田んぼの中にぽつりとあった。ぼくらがついたときには駐車場には車が数台あるだけだった。美術館はぼくが想像していた通りのものだった。館内の至る所からファインダーのフレーミングで切り取ったような鳥取の晩秋の田園風景が顔を覗かせていた。

 その日は生憎大山は顔を見せなかったけれど、美術館のフレーミングの向こうには湿気を含んだ鳥取の空気が感じられて、なんだか植田正治の言う「写真する幸せ」みたいなものが伝わってくる。二階にあるいわばメインの眺望の前の椅子に一組の夫婦が腰かけている。

 ゆったりとして、とても上質な時間が流れているような気がした。何枚かシャッターを押したのだけれど、その時初めて気が付いた。この美術館の中で写真を撮ると、どんな場面でも植田正治の演出写真のようになってしまうのだ。それこそが、この美術館の一番の目論見だったのではないだろうか。この美術館の中でファインダーをのぞく時感じる不思議な感じ、それが彼の言う「写真する幸せ」みたいなものなのだろうか。

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 日曜日の朝に車で東京を出発した。以前から友人と京丹後に行こうと話していたのだけれど丁度十一月の一日から京丹後の間人ガニ(たいざガニ)が解禁になるのでそれをきっかけに行くことになった。ただ休み明けにぼくが病院に行かなければならないので、ぼくの勝手で二泊三日のせわしない旅になってしまって申し訳なかったと思っている。

 友人と彼の倅さんとぼくとの男三人旅。友人は関西に拠点がある時に何度か訪れていたので、ぼくは行くというより連れて行ってもらうという形だ。運転もお任せした。期間が短い割には欲張って鳥取の足立美術館と植田正治写真美術館を観て、京丹後でカニを食べて、伊根の舟屋群を観てと…どれも素晴らしかったなぁ。

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 今回の旅行は写真を撮るのが目的ではないけれど植田正治写真美術館や伊根の舟屋など撮ってみたいところがあったので密かに期待してNEX-7も持って行ったのだけれど…。ところが、ところが途中でまさかのバッテリー切れ。もちろん予備のバッテリーを持って行ったのだけれど、どういう訳かそれも瞬時にアウト。きっと予備の分はちゃんと充電されていなかったのだろう。短期だから充電器も持ってこなかったし。毎度のお粗末さ。

 肝心の写真美術館で数枚撮ったところでアウト。あとは舟屋などもサブで持っていたSonyのポケット・デジカメとiPhone6のカメラという、トホホな状態。確かに写真を撮りに来たのではないのだけれど、それでも気持ち的にはとてもへこんだ。足立美術館はその素晴らしい庭園と日本美術の作品をしっかり目に焼き付けてきたから好いようなものだけれど、伊根の舟屋の美しい水の色の変化を捉えることが出来なかったので返す返すも残念。尤もバッテリーがあったからといってぼくの力でそれが捉えられたかどうかは怪しいものなのだけれど…。



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<Photos>
上:植田正治写真美術館/伊根の舟屋/足立美術館庭園/京丹後の海
下:伊根の舟屋室内/植田正治写真美術館/京丹後の空

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 *伊根の舟屋で工房をしている伊根工房のお上さんは明るくて気さくな女性でした。そこの舟屋では彼女の創った陶芸品が置いてあったりカフェをやっているばかりでなく、一日一組の泊り客も受けているそうです。伊根湾に向かって家の船あげ場が開かれた舟屋は独特な構造をしていますが、なかなか中までは見られないようです。

 ここは船を引き揚げて吊り下げるスペースの所がカフェになっていて、そこから船が出入りする空間をコーヒーを飲みながら見ることが出来ます。お上さんとのツーショットをスマホで撮ってもらったのですが、その光は水面からの反射光でとても優しい光になっていました。

 *東京→玉造温泉(島根県)→足立美術館(島根県)→植田正治写真美術館(鳥取県)→京丹後市間人(京都府)→伊根の舟屋群(京都府)→東京



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ナツパパ

気の合う仲間と旅行は愉しいものです。
...そこに息子さんも加わるようになるのは、
相応に年を重ねたと言うことなんですね。
うちの息子もそういう風になってくれないかしら。
きっと愉しい旅になるだろうなあ、と夢想します。
by ナツパパ (2015-11-06 19:49) 

JUNKO

私もバッテリーやメモリーカードの失敗と悔しさ何度も経験しています。残念でしたね。
by JUNKO (2015-11-06 19:58) 

TaekoLovesParis

足立美術館の庭園は、閑静なたたずまいが伝わってくる写真がすてきです。有名な場所ですものね。京丹後の海も、海を取り囲むかのような雲のようすが素晴らしいです。下の植田正治写真美術館の写真は、マグリットの世界を思い出させます。
by TaekoLovesParis (2015-11-07 12:01) 

engrid

是非に訪れてみたいと思っているのが
伊根の舟屋、、
素敵なカフェですね、そこに座って半日ほど過ごしたいです
by engrid (2015-11-10 18:46) 

SILENT

植田正治写真美術館に駅から歩いて向かった夏を思い出します。
大山が印象的な素敵な美術館でした。山陰の海も季節季節で印象に残りますね。
by SILENT (2015-11-17 10:04) 

coco030705

こんばんは。
足立美術館は一度いったことがあります。すばらしい美術館ですね。もう一度行きたいなと思います。
ブルーグレーの海と面白い形の雲と青空がいい対比をなしていますね。美しい写真です。 美術館の外の空に浮かんでいる物、一瞬UFOかと思いました!なぜこんなものが浮かんでいるのでしょうか。
最後のツーショット写真、gillman さんのお顔がとてもリラックスしています。ドイツのコンサートホールでタキシードに蝶ネクタイのときは、ちょっと緊張しておられたように思いました。

by coco030705 (2015-11-27 22:25) 

evergreen

学生の頃、二月の丹後半島をバスで一周しました。
舟屋を見るために伊根で降りたら、次のバスまで二時間だか三時間だか、それも最終、伊根で降りた他は本当にバスに乗っているだけでした。
香住でカニを食べようと魚屋にいったら時化で松葉ガニの水揚げがなく、
しかたがなく香箱カニを食べましたが十分美味しかったです。
いまだったらストックがあるのでしょう。
カニも今ほど一般的でなかったのでしょうか。
あまりカニと書いてあるものを見かけませんでした。


by evergreen (2015-12-05 09:23) 

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