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失われたもの 継ぎ当て [下町の時間]

失われたもの 継ぎ当て

 下町そして日本の中から消えたものの一つに「継ぎ当て」や「掛け接ぎ(かけはぎ)」がある。
今は破れた衣服を継ぎを当てて着るということはまずないし、それどころかどこも傷んでいなくてもちょっと流行おくれになっただけで処分してしまうことも多いと思う。掛け接ぎは破れたところを目立たないように繕うことだが、その言葉も今は聞かれることはない。昔はクリーニング屋さんなんかでやってくれたものだ。
 僕は下町育ちだから子供の頃は青鼻垂らして路地で遊び回っていた。メンコやベーゴマ遊びをする時はどこでにもでも座り込んでしまう。でも、子供なりにしゃれっ気はあったらしく、ある時継ぎのあててある半ズボンが恥ずかしいとお袋に文句を言ったことがある。その時はお袋にこっぴどく叱られた。汚れたままだったり、破れたままの洋服を着ているのは恥だが、ちゃんときれいに洗濯がしてあり、繕いがしてある服を着ていることは恥じゃない、何が恥ずかしいんだ、馬鹿たれ、である。そういえば、一緒に遊んでいる子の服もどこかしらは継ぎがあててある。継ぎのあてていない服の方が珍しかった。「継ぎ当て」や「掛け接ぎ」があたりまえの世界だったのだ。

             昭和28年頃

 最近、街なかで破れたジーンズをはいている若者を多く見かける。膝小僧が出ている時もあれば、お尻が破れている場合もある。どう考えても、衣服を大事にして破れても着ているという風には見えない。明らかに意図的に破いているのが分かるものもあるのだ。
 
 ジーンズの美学(以前はジーパンって言っていたが)はその生い立ちから言っても、その方向性は丈夫で長持ちとか使い込んだ味だとかだと思う。人間の思考はマンモスの牙と一緒で一旦方向性がつくと行き着くところまでいくのだが、その延長でいくと、ジーンズの進化の方向は、使い込んだジーンズ洗いざらしのブルージーンストーンウオッシュブリーチ装飾的な掛け接ぎまたはアップリケや刺繍あたりまではいくと思うのだが、「破れたままはく」というのは今までのジーンズの美学とは系譜が違うと思う。

 それで思い出したのだが、それは「ヒッピーの系譜」かも知れない。1970年代、一時期ドイツに住んでいたことがあるが、当時ヨーロッパにはヒッピーがあふれていた。長髪と無精ひげそれによれよれの服。それは豊かなアメリカが生み出した、旧世代に対する反抗の文化の象徴だった。当時穴の開いたジーンズをはいていたヒッピーも大勢いた。彼らは本当に貧しいわけではなく当時の大人に反抗して「貧乏ごっこ」をしていたのだ。しかしこのヒッピー文化は音楽や美術やその平和観など現代文明に多大な影響を及ぼして、そしてやがて消えていった。結局は彼らは長髪を切ってウォール街の住人なんかになっていったのだ。かく言う僕もその端くれのようなものかも知れない。

 そう考えると「貧乏ごっこ」ができるほど日本も豊かになったということだと思う。それは最初は確かに、体制を牛耳る大人に対する若者なりの反抗の印だったんじゃないだろうか。しかしある日マドンナみたいなファッション・リーダーが穴の開いたジーンズをはきだしたときから、それは単なる記号になってしまったのかも知れない。だから今はそんなに意味のない単なるファッションの一アイテムになっているんじゃないだろうか。

 本当に貧しい国で穴のあいたジーンズをはいていたら、それはファッションなんかではなく厳しい現実なのだ。かつて戦後の日本もそんな貧しい国だった。もちろんその時はジーンズなんかではなかったが。しかしそんな貧しいなかでも自分の子供には、きれいに洗濯をし破れればきちんと継ぎ当てをした洋服を着させていた我々の親が持っていた日本人としてのプライドが、この国をここまでにしてきたということは忘れるべきではない。

                                       
*偏見かも知れないけど…、日本人を含めてアジア人が「破いたジーンズ」をはいていると、いやに生々しくて貧しい生活感がにじみ出ているように見えてしまうのは僕だけでしょうか。ファッションではなく、単なる「破けたジーンズ」に見えてしまうんですね。


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HummingBird

リーバイス自体が破れた加工を施した商品を売ってますからねぇ。
買った時から破れてる・・・普通だったら「なんじゃこりゃ!」ですよね(笑)。
by HummingBird (2006-02-09 11:30) 

tamegorou

ファッションって、考えるとちょっとアブナイ面もありますね
パンツ見せたり・・・(^^;
自由の中には品性の無い自由も含まれるということでしょうか・・・
by tamegorou (2006-02-09 12:02) 

夏Meg

おかあさん!ごもっとも!!
子どもの頃、破れるまで、破れても着続けるくらい気に入っていたトレーナーがあったなぁ…と、思い出しました。うちの母は、すきを狙って、捨てようとしていました。洗濯物に入れると、洗濯されず、捨てられるおそれがあったので、洗濯もせずに、着てたなぁ…
そうやって考えると、「破れ」って奥が深いモノなのかも…でも、わざと破くのは、反対!!!年寄りかしら…
by 夏Meg (2006-02-09 12:15) 

山猫庵

小学校の高学年くらい間では
近所で遊ぶ時にはくジーンズは
殆ど継ぎ当てされてたっけなぁ…
でもさすがに中学に入ると恥ずかしかったし
母も「みっともないからもう捨てなさい」って
言われたような記憶があります。
by 山猫庵 (2006-02-09 13:02) 

としぽ

懐かしいですね。昔は子供達は継接ぎの服は普通に着ていましたね。
家でも直ぐに破いて、叱られて継接ぎをしてもらってましたね。
最近、子供達は遊ぶ場所もないし、親が常に監視していなくてはならないから存分に遊べませんね。
by としぽ (2006-02-09 18:31) 

かめむし

子供の頃はズボンのひざあたりに、すぐ穴が開いたものでした。
そういえば継ぎ当てしてもらいましたねえ。
大人になったら不思議とズボンに穴開かなくなった・・・
それに最近は服が安くなりましたよね。直すのがバカらしくなっちゃうくらい。
by かめむし (2006-02-09 20:12) 

ナツパパ

子どものジーンズはすぐに穴が開いてしまいます。
それで、妻が継ぎ当てをしているんですが、先日、先生から、新しいの買ってもらったら、と言われたとか。
妻がカンカンになって学校に突進していきました。
で、学校で先生に言った言葉が、gillmanさんのお母様が言った言葉とほぼ同じでした。
ちなみに、妻は私と同年で、立派な継ぎ当て世代なんです。
by ナツパパ (2006-02-09 20:42) 

momo

 もしかしたら世の中、破れかぶれなのかも。ジーンズのほころびはかわいいけれど、世上の秩序に開く穴は困りますね。継ぎ接ぎばかりのマツリゴトに遠因があったりして・・・。アチキのブログにコメント寄せていただき感謝。gillmanさんだけです。
by momo (2006-02-09 23:52) 

kumako

何度投稿しても、
"あなたのコメントにはユーザが設定したNGワードが存在するため、受け付けられませんでした。 "
と出て、受け付けてもらえないですう(/_;)
中学時代のかけはぎの経験について書いてるだけなのですが・・・なにがひっかかったんだか(;^_^A アセアセ
by kumako (2006-02-10 09:06) 

「かけはぎ」で思い出しました。昔はストッキングも高級品だったので、母はかけはぎに出していましたよ~~。
今じゃ想像もつかない話ですね~~。
by (2006-02-10 10:14) 

Baldhead1010

今は、つぎはぎのパッチワークとやらが、ゲージュツになってきてますね。
by Baldhead1010 (2006-02-10 11:19) 

コメントが受け付けられないですね。
by (2006-02-10 16:32) 

gillman

またソネブロがおかしいのでしょうか
試しにスパム・ブロックを外してみます
by gillman (2006-02-10 18:21) 

albireo

ファッションは、それぞれの時代を映すわけですから、その時代ごとの価値観に左右されるのは仕方がありませんが、破れたジーンズやずり落ちそうにはいたズボンには、ただ不潔感が漂うだけのような気がします・・・。

スパムブロックを掛けると、思いもかけない言葉に反応して、はじかれるようです。僕も、他の方のブログで経験があります。
by albireo (2006-02-11 03:20) 

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