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ピントグラスの向こうに Yashica 4X4 [下町の時間]

ピントグラスの向こうに Yashica 4X4

  シャッターを押すときのドキドキ感というのは写真の醍醐味の一つだと思うが、もちろんその時撮影者は直接被写体を見ているのではなくてファインダーなどの何らかのカメラの目を通して見ている。僕の場合、どんなカメラの目かによって少し被写体を見る感覚が異なるような気がする。僕だけかもしれないが…。デジタルカメラは大抵、液晶画面と覗くタイプのファインダーの両方を持っているがどちらを見るかで世の中の見え方が少し違うと思う。

 僕はカメラのことは余り詳しくないけれど、自分が今まで使ったカメラだけでもいろいろなファインダーがあったように思う。いちばん簡単なのは覗き窓に簡単なレンズが付いただけのファインダー。コンパクト・デジカメも大抵このファインダーも持っている。それからライカなどで有名なレンジファインダーがある。画面が明るいしレンズ交換にも対応した視野が得られる優れた機構だ。それから一眼レフのファインダー。視野がレンズの明るさに左右されるので暗いレンズだと見にくいが、フィルム面に捉えられた映像に一番近いイメージが得られると言う意味では一番使いやすいかもしれない。ここまでは目をファインダーに密着させて「覗く」という行為がメインになる。

 それに対してピントグラスは外界を擦りガラスの上に映し出しその画像を見るというものだ。記念撮影のとき写真屋さんが黒い幕を被って見ているのはこのピントグラスに逆さに映った外界の像だ。ピンホール・カメラや二眼フレックス、それにある意味では液晶画面も映像を「観る」タイプのファインダーだ。

 僕にとって「覗く」タイプのファインダーはその視野を通して外界に入り込んでゆく感覚がある。望遠だったり、広角だったりいずれにしてもその焦点距離等が自分の目となってその感覚で現実を体験しフレーミングをさがしてゆく感じだ。つまりファインダーの向こう側に心が行く感覚がある。

 一方、ビントグラスや液晶画面のように「観る」タイプのファインダーは目の前の現実を切り取って、既に別の世界として定着されたものを選んでゆくような感覚がある。僕の使っているSonyのCybershotでいえば一眼レフのファインダーと液晶画面の二つの選択肢があるが、どちらを見てシャッターを押すかで微妙に感覚が変わってくると思っている。

 被写体の中に入ってゆきたいときはどうしても「覗く」タイプのファインダーを使いたくなる。ファインダーの向こう側で起きていることを自分が選択したレンジのカメラの目を通してリアルタイムで体験してゆく興奮がある。それに対し、液晶画面やピントグラスはもう少し客観的な突き放した感覚があるから絵作りにもそれが出てくるような気がする。ピントグラスの向こうに繰り広げられる現実の「観察者」としての目が光っているような感覚だ。うまく言えないが、それは決して「傍観者」の目ではなくて、撮る人間の主観的感覚にいくばくかの客観性をもたせる作用があるように思う。


                
 先日、我が家の天袋から新聞紙にくるまれて昔使った三つのカメラが出てきた、という話を書いたが。その時出てきたAires 35につづいて二つ目のカメラが上の写真のYashica 4x4だ。ボディーのレザーのところに少しシミが出始めているがそれ以外はそんなに傷んでいない。それまではカメラといえばレザー部分は黒と決まっていたが、このYashica 4x4はグレーと黒のツートンカラーでとても鮮烈な印象を受けたのを覚えている。他の色もあったらしいが僕はグレーしか見たことはない。

 このカメラの面構えを見てピンと来る人はかなりのローライ・フレックスのファンかもしれない。このカメラは、ローライフレックス4×4(Rolleiflex 4×4)通称グレーベビー・ローライのコピーと言われている。コピーというよりはデザイン盗用として
、提訴され一年にも及ぶ和解交渉の末、デザインを変更したため、世界中に知られることとなったらしい。
        これが本家のローライ・フレックス

 じゃあ無法コピーの粗悪なカメラかというと全然そんな感じはない。というより今触ってもずっしりとした重量感や巻き上げレバーの軽快な動きなどメカニカルな充実感は素晴らしいものがある。僕は結構気に入っている。そんな技術があるのにデザイン・コピーの誘惑に勝てなかったのか。1958年(昭和33年)という時代背景がそうさせたのかもしれない。当時の日本人の手の届く価格で魅力的な商品に仕上げるための苦悩が見える。しかし、このカメラのデザイン盗用事件をきっかけに日本機械デザインセンターが設立されて模倣防止に努めるようになり、ここから日本のカメラメーカーの独自路線が始まったと言われている。

 
 
 フィルムの巻き上げレバーもローライと同じデザインだ。もっとも二重撮影防止になっていなかったので時々ダブったり、空白のコマができたりした。しかし巻き上げるときのシャカッ、シャカッという音は気持ちが良かったな。ハッセルブラッドや当時出始めたゼンザ・ブロニカの巻上げアクションみたいで面白かった。正方形のピントグラスは上から覗き込む方式で、詳細なピントあわせができるようにルーペが起き上がるようになっている。残念ながらローライに比べてレンズが暗いのでピントグラスは見づらかったように思う。

<Yashica 4x4のスペック>
 形式・タイプ  二眼レフカメラ
 画面 サイズ  40x40mm 127フイルム使用
 レンズ  YASHIKOR  60mm F3.5 3群3枚(→ローライはF2.8位だと思う)
 最短撮影距離 3.5ft、最小絞りF22
 シャッター  B、 1, 1/2, 4, 8, 15, 30, 60, 125, 250, 500
 X,M接点、セルフタイマー付き コパルSV
 ファインダー  二眼レフ、&透視式スポーツファインダー
 製造年度  1958年
 メーカー  YASHICA
 *Yashicaは現在キョウセラのカメラ部門となりContaxを製造しているので技術は今も息づいている


 コピー商品というレッテルを貼られたこのカメラだが、我が家の歴史をしっかりと見詰めてはいた。そのピントグラスの向こうにはまぎれもなく昭和三十年代の下町の光景が繰り広げられており、このカメラはそれらを定着させている。「傍観者」ではなくて共に時代を生きた日本人の作った日本の製品として精一杯の力で時代を捉えようとしていたのだと思う。

          
  

                    

*やっとPCの大掃除をしました。長い間使っているとOSにゴミがたまって段々と遅くなりますが、僕のPCもごたぶんに漏れず亀のようなPCになってしまいました。それに加えてカタツムリのようなソネブロ、ストレスが溜まるばかりです。一旦リカバリーをしなくては、と思っていましたが膨大なアプリケーションとドライバーを入れなおすことを考えるとなかなか踏み切れないでいました。
この間までは何とか年内に、と思っていましたが気がついたら一月ももう終盤に…。
とうとう年貢を納めて今週断行しました。結局、まる二日間かかりましたが、今はサクサク動いています。疲れた。


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HummingBird

Niceを10回くらい押したいのですが反映されますか(笑)?
127フィルムというのがなかなか入手困難なので120を切り出して使ってる猛者もいるようですよ。スペックも見る限り一流機並みですね!
by HummingBird (2006-01-28 18:57) 

shareki

自宅にも親父の持ってる2眼レフがあるはずですが、
子供の頃、凄く高いんだろうなぁとか思って触れませんでした。
by shareki (2006-01-28 19:14) 

ccq

カメラ千夜一夜,また次のお話を期待しております。
by ccq (2006-01-28 19:53) 

ナツパパ

以前、ミノルタオートコード、というカメラを使っていました。
同じように2眼レフ式のカメラでした。
今でも手元にあり、たまにファインダーを覗いたりシャッターを切ったりします。

今度使ってみようかな。
by ナツパパ (2006-01-28 20:10) 

HAL

これ、父が持っていたような...
まだ使う機会があるかなー

もらってしまおうかな。(笑)
by HAL (2006-01-28 22:21) 

GUSUKO-BUDORI

写真のことはわからないんですけど…
「覗くことで入りこんでいく」感覚は、なんとなくわかる気がします。
しかし…相変わらず重いですね。
by GUSUKO-BUDORI (2006-01-29 01:51) 

ziziblog

懐かしいですね。こうしてみますと、格好いいのか悪いのか?(笑)
やっぱりあこがれですね。中古マメラ店いって気になるのは、やはりこれです。
by ziziblog (2006-01-29 07:39) 

Abraxas

小学生の時、親父に借りたか貰ったか忘れましたが、ミノルタの2眼レフを遠足に持って行って写した記憶があります。
こちらは、GMTなのでまだ28日の23時16分です。
by Abraxas (2006-01-29 08:16) 

かめむし

子供の頃、ヤシカ二眼レフの説明書が家にありました。
でもカメラはなかった…。
載ってる写真のおねえさんは皆、付けまつげバッチリで時代を感じました。
それにしても昭和30年代の写真に「豊かさ」を感じてしまうのは何故なんでしょう。
by かめむし (2006-01-29 09:17) 

mayumi

凄いカメラですね
カメラ博物館にあるような(そんな博物館ある?笑)
by mayumi (2006-01-29 09:31) 

としぽ

家には伯父さんの使っていた2眼カメラが有ります。懐かしい形ですね。
今では使えませんが、写真に興味を持った頃を思い出しますね。
by としぽ (2006-01-29 13:07) 

domhori

小学生のころ、寝床でふと気づくと、雨戸の小さな節穴から差し込んだ庭の景色に驚いたことがある。もちろん壁に映し出されたのは偶然に起こったピンホールカメラの映像。当時、景色を切り取るなどという恐れ多きこと考える余裕もない鮮烈な思い出です。今になっても、遮光幕を被って写す大判カメラに憧れる。それが原体験だからかも。パソコンの大掃除ご苦労様でした。
by domhori (2006-01-29 16:07) 

lingnam

こうしてみるとコンパクトなデザインに見慣れた目にはむしろ新鮮なデザインに映ります。パソコン大掃除お疲れさまでした。はじめるまで決心をつけるのが大変ですよね。
by lingnam (2006-01-29 18:01) 

IXY-nob

二眼レフは懐かしいですね。私の子供の頃の写真は親父が二眼レフで取ったものでした。確かに正方形のフィルムでしたね。
by IXY-nob (2006-01-29 18:53) 

シンガポールから帰ってきました!
またよろしくお願いします。
by (2006-01-30 00:04) 

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