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[Déjà-vu] 薄れゆく記憶 [新隠居主義]

[Déjà-vu]  薄れゆく記憶


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 若い頃からずっと働いていた会社のOB会から時々会報が来る。OB会の総会などの席には顔を出したことは無いけれど、時たまくる会報には目を通すようにしている。活動報告の欄などには大抵は顔も名前も知っている人物が出てくるのだけれど、最近はちらほらと見知らぬ顔や名前も現れ始めた。

 そんな中で昨日来た会報に目を通していたら訃報欄に昔の同僚の名前を見つけて何とも表しようのない感情に襲われた。むろん、訃報だから悲しいのだけれど、ただ悲しいのではなくて今まで彼が過ごしてきただろう時間のことを思うと何ともやりきれない思いがした。

 当時同じ部署で働いていたH氏は歳はぼくより3つくらい下だったけど会社では先輩だった。彼とはそれ以前にも別の部署にいる時も一緒だった時期もあって気心は知れていた。仕事には気骨のある人で時には暴走気味になることもあったりして、人によって評価は分かれるところだったが、ぼくは彼のそういうところも買っていた。

 そんな彼がある日、頭痛が続くということで近くの大学病院に検査に行くことになって早退すると…。ぼくも事前にその話は聞いていたのだけれど、昼近く外出するときに会社の前でこれから病院に行くという彼とすれ違って二言三言言葉を交わした。どこが悪いのかと思うほど元気そうだった。しかし結局元気な彼と言葉を交わしたのはそれが最後になった。

 診断は脳腫瘍だったのだけれど、手術の結果命は取りとめたが、視覚の半分を奪われ身体の自由もきかない状態になってしまった。視覚は目の障害ではなく脳の障害によって起きている視野狭窄のため、顔を左右に動かしても常に視野の半分を認識しないという深刻な状態だった。

 もちろんそんな状態では仕事を続けることはできないが、その後もかなりの期間は在籍して当時はまだ余裕のあった健康保険組合からも医療援助を続けたと聞いている。ぼくも何回か面会したけれど、胸のつまる思いだった。リハビリも段々と本人の意欲がなえてきて成果ははかばかしくないとも聞いた。

 あれからもう15年以上もたったかもしれない。その間にぼく自身も一時は車いすの生活を余儀なくされるようなこともあって、彼の記憶も遠ざかって行った。とは言え彼とは特に最後の頃業界の色々な問題に取り組んでいたこともあって、それに関係するようなニュースが流れると、あんなこともあった、こんなこともあった、と思い起こすことはあるのだけれど…。

 記憶が遠のくのはもちろん悪いことばかりとは言い切れない、辛い記憶が時と共に遠のくからこそ人は生き続けていけるということもあるかもしれない。でも、一方その記憶が遠のいてゆくこと自体に悩んだり、またそういう自分を責めたりすることもあるかもしれない。

 それと直接は関係ないけど、ぼくの嗅覚がダメになって半年以上たったが、今その嗅覚の記憶が段々と遠ざかっているような気がする。以前は嗅覚がゼロでもテレビで火事の場面になると焦げ臭い匂いを感じたり、コーヒーの画像でいわば幻嗅ともいえるような匂いを感じることが多かったのだけれど、それも最近減ってきているような気がする。

 今、匂いを想い出すということは難しくなっている。コーヒーの香りやワインの香りばかりでなく、あの夏の草いきれの匂い、食欲をそそる少し焦げた醤油の匂い、大好きなオーデコロン4711のあの柑橘系の匂い。まだまだ忘れたくない匂い・香りが山ほどあるのに、その記憶がどんどんと遠のいてゆく。例えそれが香りのデジャブでもいい、一瞬でも蘇ってくれないものか。



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coco030705

こんばんは。
この頃私は昔のことをよく思い出します。亡くなった家族、友人のことを。若い頃は少し思い出しても、忙しさに紛れて、すぐ記憶の彼方に飛んで行っていたことを。自分も年をとったのだなと思います。
ところで、サイドの吉田博さんの回顧展はぜひ行こうと思っております。ソネブロのTaekoさんの記事を読んだり、友達が行ってきてよかったといっていましたので。それにgillman さんの記事も読んで是非にと思いました。楽しみです。
by coco030705 (2017-07-31 21:44) 

mimimomo

こんにちは^^
歳を取るに従い訃報に接する機会が多くなります。淡々と受け入れざるを得ないのですが、それと同時に自分の身にも迫ってきている(年齢)のを実感します。
by mimimomo (2017-08-01 10:29) 

JUNKO

見事なうろこ雲ですね。
by JUNKO (2017-08-01 19:49) 

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