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真昼の闇 [新隠居主義]

真昼の闇

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 ロシアの友人が出張で日本に来ており行ってみたいというので一緒に川崎の日本民家園に行った。彼女も写真が好きなのでぶらぶらと写真散歩に行ってみることにした。彼女は日本に留学後帰国して就職した会社の関係で最近は東京にも出張で来るようになった。

 ぼくもここ日本民家園は初めてなので新鮮な感じがした。園内には20棟以上の日本全国の古民家が移築されていて、散歩している感覚で順次観て歩けるようになっている。連休ということもあってか色々なところでイベントも行われていたし、多くの古民家に上がることができ、何軒かの民家の囲炉裏には火が活けられていた。

 どの民家の梁も太く黒々として三百年近くもその家をしっかりと支えてきた自信に満ちている。家々を観てまわっている内に、木造の家に比べて鉄やコンクリートの家の方がずっと盤石だということは単なるぼくらの迷信であると感じられた。それはぼくらが当然と思っている直線的な進化や進歩というイメージを無言のうちに拒否している。

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 古民家の中に一歩足を踏み入れると一瞬目くらましにあったように視界が真っ暗になる。暫くして暗闇に目が慣れてくると三和土(たたき)の床の上に広大な空間が広がっているのがわかる。そこにはかまどであったり、農具であったり昔の生活のよすががうかがえる品々が…。

 暮らしの場でもあり作業の場でもある三和土から一段高いところに座敷がある。その中心になるのが囲炉裏で、それは暖房であり夜の灯りであり、家族のだんらんの場であり、そして夕餉の調理の場でもある。その日は特別に囲炉裏に火が活けられていて、火種を絶やさないように薪をくべる度に煙が立ち込める。

 その煙は魚などをスモークして保存食にするばかりでなく、家の隅々までゆきわたり家屋の建材を保護したり木に付く虫を駆除したりする役目も持っていたらしい。靴を脱いで座敷の方に上がりさらに奥の部屋にゆくとそこはひっそりとして再び昼の闇が支配している。わずかに開けられた格子の向こうから幾筋かの光が差し込んでいる。

 囲炉裏の方からやってきた微かな煙のせいで真昼の闇の中に天空の光芒のように鮮やかな光の筋が現れていた。ぼくらはもう日常生活の中では「真昼の闇」というものをすっかり忘れてしまっているのかもしれない。ぼくらにとって昼間は当然明るいもので、例え陽が差し込まない場所でもそこには人工的照明があるので昼間においては闇の世界はない。

 昔の人は今のぼくらよりずっと光の微妙なコントラストに敏感だったのではないかと思い始めた。そこにはぼくらがもう忘れてしまった真昼の闇というものが存在している。今日の古民家はそのことも思い起こさせてくれた。

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 *「真昼の闇」ということをぼくらは忘れていますが、これは案外昔の絵画などを見る時にも実は大事なポイントなのだと思います。昼間には明るい居住空間に住めるようになったのは、ガラスや広い窓の建築様式の出現など時代的にはつい最近の事なのですね。

 時代や歴史などを机の上だけでなく、光や匂いや音、手触りなど五感でも感じてゆくということは正しい時代認識をする上でも大事なことだと思いました。


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katakiyo

繊細な感覚で暮らしていた先祖の思いが伝わって来ます。
by katakiyo (2016-03-23 05:45) 

mimimomo

おはようございます^^
父の実家を思い起こしました。確かに昼間の闇ってありましたね。子供のころのこと、ほとんど忘れています。
by mimimomo (2016-03-23 06:30) 

engrid

差し込む光、
陰影の美しさを感じています
by engrid (2016-03-23 17:55) 

ZZA700

煙に燻された建物の匂いが薫って来そうに感じます。
by ZZA700 (2016-03-23 19:53) 

JUNKO

モノトーンで光の美しさが強調されていますね。
by JUNKO (2016-03-23 20:38) 

月夜のうずのしゅげ

囲炉裏のあった父の実家を思い出しました
今はもうみんな亡くなってしまいましたが
by 月夜のうずのしゅげ (2016-03-24 07:59) 

TaekoLovesParis

日本民家園、行ったことあります。私が行った時は小雨ふる日だったので、光を感じなかったけど、こんな光の筋を小さい時に行った親戚の家で見ました。古い庄屋の家だったから、こんなふうに光が入ってました。
サイドバーの「ドイツビール旅行」、ビール辞典のようで参考になりそうです。
by TaekoLovesParis (2016-03-24 22:17) 

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