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感性の復讐 [新隠居主義]

感性の復讐

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桜が咲く頃になると今はない親友のことを強く思う。今でも音楽会や展覧会など何かあるたびにアイツがいたら喜ぶだろうなぁ、とかまたうるさいこと言うんだろうなぁとか考えてしまう。先月の末がその彼の十三回忌だった。「早いものでもう十三回忌…」という気持ちにはならなっかった。

 この十二年間は残された家族にもぼくにとっても短いものではなかったし、楽なものでもなかった。十三回忌にあたってぼくは彼の奥さんに手紙をかいた。ぼくの今の想い、この十二年間の時の流れ、彼が生きていたらぼくは多分まだ仕事を続けていたかもしれないということ等など。

 家族だけの十三回忌が終わって先日奥さんから返事があった。ぼくの手紙を仏前で声を出してアイツに読んであげたという。ぼくは手紙で親友のことをアイツと呼んでいた。そのあと何度も奥さんは手紙を読み返してぼくの無念さが分かったと言ってくれた。

 十二年前の三月下旬、春を前にしてアイツが自ら命を絶ってそれ以来、ぼくも彼の家族も何かもっとできることがあったのではないかと悩み続けた。その気持ちはそんなに早く癒えるものではないけれど、十二年と言う月日の煩雑さがなんとかそれを薄めていてくれることは間違いない。アイツにも孫が出来ていた。

 彼とは大学が一緒で、当時学生運動で授業が潰れることも多かったから、ポツと空いた時間はぼくはほとんど上野の美術館か鎌倉の彼の家に入り浸っていた。週末もたいてい由比ヶ浜が目の前にあったその家で明け方まで話し込んだ。気が付くと白々と夜が明け、青白く開けてゆく海の朝を見ていた。

 ぼくもアイツも音楽と絵画と本が好きで、でも傾向は違っていたし、彼の感性はたぶんぼくの数倍も繊細だったと思う。ぼくは東京の下町の育ちでがさつなところがあるけれど、アイツは鎌倉育ちのお坊ちゃんでぼくにとっては今まで付き合ったことのないタイプだった。でも不思議と気が合っていつも一緒にいるようになった。

 その後二人とも社会に出てそれぞれの道を歩むことになったけれど、ことあるごとに会ってはまた昔のような話をしていた。他愛ない話だけれどぼくには仕事の事から頭が離れる貴重な時間でもあった。だが、彼と話しているうちにある時からぼくの頭の中である種の危惧が生まれた。それはアイツの中での美意識や音楽への傾倒は益々研ぎ澄まされていたけれど、それは出口の無い迷路のように見えてきたことだ。

 アイツは歌わないし、奏でないし、書かないし、描かなかった。彼の感性は吸い取り感じるばかりで表出する出口を失っていたように思う。彼はその頃には自分で会社を作り仕事をするようになっていたけれど、必ずしも順調ではなかった。そしてある時突然彼の奥さんから電話をもらって彼の死を知った。ぼくはその時思った。もちろん、仕事のことが引き金になったことはあるんだろうけれども、出口の無い彼の鋭い感性が彼を追い詰め彼に復讐を果たしたように感じてしまった。

  (cam:Galaxy SⅢα)


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 *彼の生き方を見ていると、人は感じた分に応じたものをどこかで表出して行かないと精神のバランスを保ちにくくなるような気もします。それには何も絵や音楽や文章などでの優れた才能が不可欠と言うものではなくて、自分なりのやり方で好いのだと思うようになりました。そういう意味ではぼくの今やっている、今の気持ちに「なまえ」を付ける作業もその一つかもしれないと思うことがあります。


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coco030705

こんばんは。
まずはgillman さんのお友達のご冥福をお祈りいたします。
親友の死というものは、何年たっても癒されないものですね。
私も早くに亡くなった友がいます。彼女はガンでした。
アメリカへ行って大学院で勉強して、帰ってきて一生懸命仕事をしていましたが、帰国後わずか1年半で亡くなりました。独身でした。
私より年上で、映画が大好きな人で色々な映画のことを教えてもらいました。
彼女がいたら、この映画をなんと評価するだろうとよく考えます。そうすることが自然に彼女に対するお供養になっているように思います。
by coco030705 (2013-04-10 23:29) 

ナツパパ

もうすぐ60歳になるわたしですが、友人の訃報に接するたび
あれこれ思い出が沸き上がって、しばらく収拾がつかなくなります。
これから年を重ねると、そういう報も増えていくのか...厳しいことです。
遅れましたが、ご友人のご冥福をお祈りいたします。
by ナツパパ (2013-04-11 08:45) 

としぽ

こんばんは。
ブログで知り合った友人が若くして自分で命を絶って、来月になると一年になります。彼が目指していたものは何だったんだと思ったりしています。

by としぽ (2013-04-11 21:46) 

Silvermac

私も2月に相次いで若い頃からの親友二人を亡くしました。まして自死されたとこと、想いが残りますね。
by Silvermac (2013-04-12 09:50) 

engrid

ご友人のご冥福をお祈りいたします
by engrid (2013-04-12 15:43) 

albireo

音楽や絵画や本の話が出来るご友人。
そういう友人が居られたこと自体、僕には羨ましいお話です。
でも、そんな友人に、自ら命を絶たれてしまうのは、どれほどに辛い事かと、想像することさえ、苦しい思いがします。
そして、僕は今不意に、亡くなられた、顔も知らないlapisさんのことを、思い浮かべました…
by albireo (2013-04-20 22:12) 

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