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安寧は [Music Scene]

安寧は

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  ここのところ毎年年末になると教会で行われる英国大使館合唱団の演奏会に行く。友人の知人がその合唱団の団員になっているので、その関係で毎年誘ってもらっている。音楽監督ステーブン・モーガン氏の率いるこの合唱団はアマチュア合唱団ではあるけれど、正式な音楽教育を受けた団員が多いこともあって驚くほど質が高い。

 今年の曲目はJ・Sバッハのロ短調ミサ曲だった。教会の建物に響き渡る透明な音は本当に厳かな空気を作り出していた。その日のオーケストラの演奏も素晴らしかったが、教会という場がその全てを包み込んで一つの完結した世界を作っていることに感銘した。ぼくはキリスト教徒ではないけれど、安寧をもたらそうとする宗教の一つのコアの部分を感じることができたように思う。

 その厳かな場に身を置きながら、ぼくはもう十五年近くも前に教えをこうた永井陽之助先生の言葉を思い起こしていた。その頃、世間は目前に迫りつつあった新しい世紀、21世紀に東西冷戦の終焉と情報化社会の到来という輝かしい未来を見出そうとしていた。ぼくも漠然としたものだがそんな希望を持っていた。

 しかし、半年間の講義が終わって最後の懇親会の席で、ぼくが先生に来たるべき世紀についての考えを伺った時の先生の答えはその希望とは全く異なったものだった。その時先生は来たるべき世紀はテロと地域・民族や宗教紛争の世紀になるだろうと言った。そしてそれは今その通りになりつつある。

 放っておけば傲慢で野放図になりがちな人の心を引き戻すには、祈りは大切なことなのだと思う。自己を超えるものや手の届かないものを敬い頭を垂れる心を失った時、ぼくらの中から何か大切なものが失われてゆくのかもしれない。しかし一方で祈りだけでは人はその業を超えて行けないのかとも思ったりもする。

 本来、安寧をもたらすはずの宗教が同時に今の惨劇も作り出している。もしかしたらその宗教が幸せにすると同じ位の数の人々を不幸せにしているかもしれない。キリスト教社会とイスラム教社会の対立だけではなく、古くはカソリックとプロテスタントの対立や、現在のイスラム教のシーア派とスンニ派の対立など同じ宗教の中でも鋭い対立が起きている。祈りは今どこへ向かっているのだろうか。

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コメント 3

としぽ

最近生の音楽を聴いていないです。
教会で聴くバッハは荘厳なイメージですね。
宗教に寄って色々と悲劇が起こされていますね。
宗教とは何なんだろうと思ってしまいますね。
by としぽ (2011-12-19 16:17) 

ナツパパ

宗教に基づく正義というのがどうも気になります。
「正義」と言うだけでも独善に陥りやすいのに、宗教的な裏付けがあると、
いよいよ暴走してしまうように思えて。
by ナツパパ (2011-12-19 19:57) 

evergreen

僕の価値観に大きな衝撃を与えたのは「アラブが見た十字軍」でした。
中世、キリスト教徒よりずっと教養があり、文化的にも文明的にも高度で、なにより寛容であったイスラムの変容(なのかな)は皮肉に思えてなりません。
by evergreen (2011-12-20 10:29) 

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