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僕らは命を食べている [にほんご]


 
  昨日、ロシア人のE君と酒を飲みながら話していたら、ちょっとドキッとすることがあった。
彼はロシア人と言ってもバイカル湖に近い地方の出で、顔は日本人そっくりである。日本へ来る前はモンゴルに四年間くらい留学していた。

彼と食べ物の話をしている時いきなり「日本はどこで羊を殺しますか?」ときかれた。
日本でも羊や豚や牛を食べると聞いたが殺しているところを見たことがない。どこで、どうやって殺しているんだろう、と疑問に思ったらしい。

僕は思わず「工場で」と答えたが、どうやって、というのは答えられなかった。
モンゴルでは羊を殺すとき痛みを与えず、一滴の血も流さない方法があって、それで自分の羊を殺して食べるのだと言う。

 僕らはと言えば、羊の肉だって、豚肉だって、牛肉だってスーパーで見る白いトレーに盛られてラップをしてある、あの形のものしか見ないし、それは「工場」から来るものだと思っている。
それは商品であって、かつて生きていたもの、という思いはない。

しかし彼の話を聞いていて、元来食べると言うことは自分の手で殺してその命を食べると言うことに他ならないと感じた。昔モロッコを旅していたとき、荒野の中でキャラバンが止まるとカバブ売りがやって来た。彼は手にカバブと今切ったばかりの羊の首を持っていた。それは、「新鮮だよ!」、という意味なんだろうが、いかにも生々しかった。

でもそれは考えてみれば「命」「食」との一体性を認識できるぎりぎりの距離感だったかも知れない。段々と離れてゆくに従って「命」は「商品」に変わってゆく。そう思った。

E君の話を聞いて思い出したこと…

・ずっと前にNHKで「世界の食シリーズ」と言うドキュメンタリー番組があって、そのなかでドイツの農家のソーセージ作りを記録したフィルムがあった。
それは晩秋のある日、ドイツの農家の中庭にまるまると太った大きな豚が引き出されたところから始まり、屠殺そして加工と続く。カメラはたんたんとその様子を記録している。最後は血の一滴まで「Blutwurst(血のソーセージ)」に加工されて捨てるものは何もない。ソーセージは薫製にして保管し一家はそれで一冬を越す。
*「無駄がない」、と言ってもコストと効率のために牛に牛の肉骨粉を与えて共食いをさせる「有効利用」とは違うと思うが…。

・反捕鯨団体のPRフィルムを見た。真っ青な大海原に鯨が悠々と泳いでいる
そこに捕鯨船が近づき銛を打ち込む。鯨はのたうち回り、やがて海は真っ赤な血の海と化す。
「残酷さ」を訴えた映像が延々と続く。確かに見るに絶えない、しかし牛や豚や羊はどうなんだろうか。我々には見えていないだけなのだ。だからといって捕鯨を云々するつもりはない。命を食べるとはきっとそういうことなんだ。

・ある若い獣医師の話。農家で飼っている牛が難病にかかり農家が困っていた。
その獣医は情熱を傾け、長い時間をかけて何度も通って、大変な苦労のあげくやっと治してあげた。農家は大変喜んで、しばらくして獣医のところにお礼を持ってやってきた。
そのお礼というのは治したその牛の肉だった。

僕らの「命」「食」との距離感はおかしくなっている。
この国の食糧自給率は40%を割っている。
…なのに食料の20%以上は捨てている。
つまり奪った命の二割は食べることもなく、残したり、賞味期限切れで捨てているのだ。

 


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HAL

これは「食」の永遠のテーマかもね。

私も前にイルカ保護を訴えて反論されたことあるし..
牛や豚ならいいのかって。

けどイルカ好きな人にとっては、漁場を守るために追い込み漁されるイルカは保護しなくちゃって気になります。
by HAL (2005-07-21 00:33) 

Rose_Blanche_Marie

スーパーのトレイに入っているお肉、私達のために殺されたのだという意識は誰も持っていないでしょう。
「現場」を知らないから平気で捨てることも出来るのです。
私達の命がそういった犠牲の上に成り立っている事を(そうしなければ私達は生きていけないことを)もっと認識しなければなりませんね。
by Rose_Blanche_Marie (2005-07-21 05:21) 

Baldhead1010

「もったいない」この言葉が世界共通語になろうとしていますね。
いいことだと思います。
それと食前の「いただきます」食後の「ごちそうさま」は是非、子供達にその意味を教え伝えて行かなければならないと痛感します。
by Baldhead1010 (2005-07-21 09:25) 

gillman

かく言う僕も時々自分でソーセージなんか作ったりしますが、考えてしまいますよね。日本には素晴らしい食文化がありましたよね。そのキーワードは「もったいない」と「はしたない」でした。それが今では世界中の魚貝資源を食い尽くすようなグルメ国家になってしまいました。
by gillman (2005-07-21 11:11) 

そん

ふふ
先週の飲み会ですね。
また、日本語入ができないです。
これ大変です。
また、火曜日です。
by そん (2005-07-23 21:48) 

gillman

ふふ
そうです、あの時の話です。
by gillman (2005-07-24 07:28) 

できるだけ食物連鎖の下の方を食べた方が地球にも自然にもやさしいのですね。牛一頭育てるのに必要な飼料(大豆やトウモロコシなど)を人間がそのまま食べた方が当然たくさんの人を養えますよね。そういう意味では精進料理はすばらしい。
by (2005-07-25 10:59) 

gillman

そうですよね牛は食べられるためでなく生きるためにエサを食べてるんですから。
by gillman (2005-07-25 13:36) 

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