SSブログ

それは、ちょっと… [にほんご]

 この間、オーストラリア人の夫妻に日本語を教えていた時のこと。どこまで教えるかで少し悩んでしまった。
彼らは二人とも英語学校の教師なんだけど、日本語はまだ初級の初めの段階。

 今の日本語教育では生活面での実用性を重視して、初級の初めの段階で自分の希望や意思を伝える表現を教えることになっている。
つまり「~たいです」とか「○○が好きです」とかの表現がそれにあたる訳で、当然その反対の意味の表現や否定の形も教えないと実用性がないので当然教えるんだけど、これが結構やっかい。

 「~たいです」の否定は「~たくないです」もしくは「~たくありません」。「○○が好きです」の反対は「○○が嫌いです」。
欧米の人は覚えた言葉はすぐ使ってみるので好いんだけど、文法的には正しくても否定の場合は少し問題が出てくる。

例えば、知り合って間もない会社の同僚の田中さんと外国人ジムさんの会話を想定してみると…

田中:「ジムさん、スシでも食べに行きませんか?」
ジム:「スシは食べたくありません」(もしくは「スシは嫌いです」)
田中:「…」

日本語の初級者だと分かっていても何となく気まずいクーキが流れるなあ。

これが
田中:「ジムさん、スシでも食べに行きませんか?」
ジム:「すみません、スシはちょっと…」
田中:「あ、そうだよね、生ものが苦手な人結構いるもんね。じゃあ、ラーメンはどう?」

とまあ、こんなにうまく行くかどうかは別として一応会話の形にはなっている。
ということで、否定の時は、「○○はちょっと…」という表現を推奨する。理由は日本人は直裁的な表現で否定したがらない、という表現特性を持ってる、というようなことを何とか状況設定の中で分からせる努力をするしかない。日本で生活していると、日本人の曖昧な表現にでくわす経験が多いので何となく納得してもらえることが多い。

 そうすると、彼らは頭の中でチョムスキーばりの表現変換をして「○○は嫌いです→○○はちょっと…」と言ってくれる。ところが彼らの頭の中では、おそらく母語では「スシなんか食えるか!」とか「スシなんかでっ嫌いだ!」とかいうフレーズが渦巻いているにちがいない。言い方の違いは表現特性の問題として捕らえているから、日本人も頭の中では同じように考えて言っていると思うにちがいない。ただ表現がそうなっているだけだと…。

でもこれでいいんだろうか。

 しかし日本人の頭の中では少し違うプロセスが働いている。日本語では直裁的な表現で否定をしないという、そういう表現特性の裏には、「相手に恥をかかせない」という心理が働いている、と思う。とすれば、相手の言っていることを否定することは、相手に恥をかかせることになるんだ、という日本語の文化的コンテクストを分からせなければ、表現の自動変換的な思考から抜け出てもらうことは難しくなる。

 自己主張、論議、交渉をベースとした言語習慣を持つ人間に、短時間でこれをわからせるのは至難の業だと思う。しかしある言語を学び使うということはその背景をも理解し受け入れることを含んでいると思う。尤も、理解しても受け入れる必要はないのかも知れないが…。(しかし全く受け入れることなしに本当に理解できるのか?)

 


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:blog

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0