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ドイツ、こころの風景 ~German Trip 5~ [gillman*s Lands]

ドイツ、こころの風景 ~German Trip 5~


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 …ドイツは、より幸福な諸国と違って、自然の境界を持たない、ということが、しばしば指摘されてきた。この主張は全く根拠のないわけではない。移動途上の諸部族それぞれが、結集、定住して、最終的に落ち着く場所を見出すのに都合の好いように、自然がわれわれのヨーロッパ大陸を、海、山脈、河川を通じて、こぎれいに個々の地域に分割したのだと考えるならば、それは自然に余りにも多くの政治的先見の明を認めることになるからだ。「ライン河はドイツの河で、自然の境界線ではない」と詩人エルンスト・モリッツ・アルントは書いたが、この発言は、そもそも河が境界であるべき理由はだれにも説明できないという意味において、正当である。…

 (ゴーロ・マン「近代ドイツ史」第一章 ドイツ史の基本的事実)


 ヨーロッパがEUになってからの旅は、昔のように国境で足止めを食らって長い間待たされることもなく、と言うかいつ国境を越えたのかさえ気が付かないで通り過ぎてしまうことが多くなった。そうなって改めて気が付くのが風景の連続性である。

 昔は手間と時間をかけて国境を超えることによって、ぼくらが風景を見る目はとりあえずリセットされてその国の光景としてぼくらの意識や心のフィルムに焼き付けられてゆく。しかし今では少なくともヨーロッパにおいては国境はそのような機能を持っていない。

 国境が無くてもドーバー海峡やピレネー山脈を越えれば中央ヨーロッパとの風景の連続性は無くなると言うかもしれないけれども、実際に時間をかけて地上を旅してみればノルマンディーは既にイギリス的だし、フランスだってボルドーを過ぎれば既に北スペインの香りがする。

 もし国境が無くなっても、ぼくらの中にいまだに風景の非連続性がインプットされているとすれば、それはぼくらのヒトとしての真っ当な距離感が飛行機旅行によって破壊されているからだと思う。一夜にして全く異なる地に降り立つことができるようになってぼくらはすっかり風景の連続性ということを忘れてしまったのかもしれない。

 その感覚は、何かで区切られた違う土地に違う民族が住んでいるという暗黙の前提をぼくらにもたらしている。南ドイツから北ドイツに、そしてさらに東に向かって旅行すればその道は、そしてその風景は連続的にハンガリーの平原を超えてウクライナの沃野まで繋がっていると言う実感が持てるはずだ。

 大昔、当時のソ連のナホトカからモロッコのカサブランカまで殆ど地上を旅してたどり着いた時の記憶がよみがえってきた。あの時風景は連続的に繋がっていたはずなのだ。その連続的な風景の中で人と土地は長い時間をかけて動きながら繋がっている。

 そのことを一番感じているのはドイツをはじめとした中央ヨーロッパに住んでいる人々なのだと思う。ゴーロ・マンの言うように棲み分けるのに都合の好いように自然は出来てなどいないのだ。バスの中からじっと見つめていたドイツの風景はそのことを雄弁に物語っていた。

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拙ブログをお訪ねいただきありがとうございました。

来年も皆様にとって良い年でありますように。


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hako

毎回チェックを、入れて頂き、ありがとうございました。
ドイツ繋がりで、高校の合唱部の先輩が出した本を、紹介させて頂きます。
また、よろしくお願いいたします。
http://cafemdr.org/RunRun-Dairy/2014-3/MDR-Diary-20141117.html
by hako (2014-12-31 16:02) 

TaekoLovesParis

ドイツ語がちょこちょこ出てくるブログは、私の訪問先では、gillmanさんのところだけです。高校の時、ドイツ語クラスだったので懐かしいです。
写真もプロ並みでいらっしゃるので、感心してながめています。
来年もよろしくお願いします。
by TaekoLovesParis (2014-12-31 16:31) 

Silvermac

記事を楽しみにしています。
来年も宜しくお願いします。
by Silvermac (2014-12-31 16:37) 

TOSHI

こんばんは
よいお年をお迎え下さい^^
by TOSHI (2014-12-31 18:14) 

お茶屋

いつも 読み応えのある素敵な記事☆とっても楽しみにしております♪
どうぞよいお年をお迎えくださいませ^◯^
by お茶屋 (2014-12-31 19:17) 

ナツパパ

よいお年をお迎えください。
by ナツパパ (2014-12-31 19:58) 

(。・_・。)2k

今年1年ありがとうございました
佳い年をお迎えくださいね(。・_・。)

by (。・_・。)2k (2014-12-31 20:35) 

テリー

すてきな文章ですね。
中欧を旅行した時の私の印象は、やはり、ドイツは、裕福、ハンガリーは、貧しいという感じを持ちました。
gillman さんの独特の視点、文章は、毎回、楽しませて、いただきました。
来年もよろしく、お願いします。


by テリー (2014-12-31 20:53) 

kuwachan

素敵なお写真と文学的な文章に毎回惹きつけられています。
来年も楽しみにしております。
良いお年をお迎えくださいね☆
by kuwachan (2014-12-31 21:05) 

coco030705

こんばんは。
いつも魅力的なお写真と知的な文章を楽しませていただいております。サイドの記事もすごく幅広い分野にこだわりを持っておられるのだというのがよくわかります。今年も有難うございました。来年もよろしくお願い致します。どうぞ佳いお年をお迎えくださいませ。
by coco030705 (2014-12-31 22:07) 

親知らず

明けましておめでとうございます。
今年も素敵な写真を楽しみに伺います。
どうぞ宜しくお願い申し上げます。
by 親知らず (2015-01-01 01:16) 

めぎ

こちらもようやく明けました。
ヨーロッパの姿が未だつかめていないような気のする今日この頃です。
by めぎ (2015-01-01 08:51) 

okin-02

新年明けましておめでとう御座います。

旧年中は我がブログに訪問頂き有難う御座いました・・・
今年も相変わり無くお付き合いの程お願い致します。

今年が皆様に取って良き年に成る事を願ってます。
by okin-02 (2015-01-01 12:43) 

いっぷく

あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
by いっぷく (2015-01-01 13:44) 

としぽ

明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
by としぽ (2015-01-01 16:13) 

fumiko

gillmanさん

あけましておめでとうございます!
昨年の海外リポートは画像ともども素晴らしかったです。今年も充実した時間が取れるといいですね。

お正月用のワイン、お役に立てていただき、光栄です!
今年も知的な刺激を楽しみにしています! 良き一年でありますように!
by fumiko (2015-01-01 23:17) 

ken

明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い致します。
by ken (2015-01-02 22:36) 

ZZA700

あけましておめでとうございます。
天使の梯子がたくさん下りてきて、とても印象的な風景ですね。
今年も素敵なお写真と文章を楽しみにしております。
本年もどうぞ宜しくお願い致します。
by ZZA700 (2015-01-03 00:19) 

aya

明けまして おめでとうございます♪
素敵なドイツの風景、見せて頂かないと、知らないままの風景。
今年もよろしくお願いします(^^)
by aya (2015-01-04 19:44) 

かめむし

本年もよろしくお願いします
by かめむし (2015-01-04 22:00) 

elmarit

好きな写真です。
by elmarit (2015-02-19 03:10) 

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