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カナリアは鳴いているか [Column Ansicht]

カナリアは鳴いているか


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 その昔、炭鉱では炭鉱夫達をガス爆発から守るために坑道でカナリアを飼っていたという。炭鉱では石炭層の中に紛れ込んでいるガス層から知らない間にガスが漏れ出してガス爆発を起こすことがあったらしい。劣悪な環境の坑道の中で働いていると、多少のガス漏れがあっても気づかなかったり、鼻が慣れてしまって人間には感じ取れない場合でも敏感なカナリアはそれを感じ取るのだ。

 ある種類のカナリアは常にさえずっている。だからそのカナリアが鳴かなくなったという時には何か異変があったということなのだ。炭鉱夫達はカナリアが鳴きやむことで坑道の中の異変にいち早く気がついて、ガス爆発の事故を未然に防いだという。ジャーナリズムはいわば現代におけるカナリアだ。世の中の矛盾や隠ぺいされたことについて常にさえずっていることがとても大切なのだと思う。カナリアが鳴き止んだ時、それは何かの異変がおこりつつある時なのだ。

 この大震災の時、そのカナリアは鳴いていただろうか。今になって震災直後の実態が本当に少しづつだが、明らかになりつつある。テレビも新聞も東電や保安院や政府を詰っているが、当のマスコミに反省の色は無いようだ。パニックを避けるという一見まことしやかな大義に隠れて、真実を探り知らせるという機能を放棄したばかりか、ご丁寧に安心情報を補強する解説者を据えて政府報道のサポートまでしていた。マスコミを構成する人々もジャーナリストだと思っていたが、その時おこりつつあることを推測できなかったとすればジャーナリストとしてはお粗末だし、敢えて知ろうとしなかったのであればもはやジャーナリストとは言えないのではないか。それが今になっての東電や政府非難の大合唱なのだ。

 そのときカナリアはどこで鳴いていたか。日本のテレビや新聞は当の昔に鳴かなくなっていたような感じがするが、震災の時かろうじて呟きが聞こえていたのはインターネットの中だけだったのかもしれない。とりわけツィッターの中でカナリアは鳴いていた。ツイッター(twitter)のもとのtweetとは鳥のさえずりということだから、まさにその時さえずっていたことになる。

 ぼく自身はツイッターはどちらかと言えばあまり好きではない。確かにそのリアルタイム性は優れているが、短い文章での言葉足らずの情報が誤解や感情的軋轢を助長する面もあると思っている。それはさておいても、震災直後から一部のツイッター上で流れていた内容の殆どを今、政府や東電はシブシブ認め始めた。ツィッターなどでの「デマ」を理由に菅首相はインターネットでの信頼性のない情報提供者に対して罰則を科すという手段をもってカナリアを黙らせようとした。

 このことで日本の政府や役人のインターネットというものに対する意識が、自分達に都合の悪い情報は止められると、いまだに思っているどこかの国の意識と大して変わらないのだということを露呈してしまった。一昔前に「インターネットは空っぽの洞窟」という本があって、その本はインターネットにはいかに価値のない情報が氾濫しているかを説いていたと記憶している。それもある意味では正しいと思う。

 確かにその一面はある。インターネットには匿名性と言う隠れ蓑にかこつけたデマや誹謗中傷もウンザリするほど数多く流されている。ぼく自身はインターネットはいわば「偉大なゴミ箱」だと思っている。その中には玉石混交、ありとあらゆるものが放り込まれている。だが、時にはゴミ箱を覗いた方がとりすました表の顔よりもより真実に近づけることもあるかもしれない。要はそれを覗くぼくらの能力が問われている。全てを額面通りに受け取らずに、有用な情報を選り分ける能力が求められているのかもしれない。

 太古の時代から権力を持ったものは自分に都合の悪い情報は他人の目に触れないようにしてきた。それは今も、そしてこれからも変わらないだろう。彼らは何かの機会をとらえてはカナリアを黙らせようとする口実を探している。ぼくらにとってみれば、今黙らせてほしいのはカナリアではなく、また臆面もなく鳴き出した「」の方なのだが…


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  *情報が氾濫し錯綜している現代では、正直言って自分自身でも何が本当で、何がそうでないか。何が意図的に流されたもので、何が事実に基づいて流されたものか見わけがつかなくなっています。そのような中でどうしたら自分のようなありふれた人間にでも少しでも本当のことに近付けるか考えてはいますが、とても難しいようです。それでも、自分と家族を守るためには読み取ろうとする努力は続けてゆく必要があると思っていますが…

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コメント 4

sayyes

「知る権利」も知ろうとする意志がなければ向うからはやってこない、ですかね。
by sayyes (2011-06-12 08:09) 

evergreen

私は、原発事故でツイッターは終わったという印象です。

ソーシャルメディアの強みは一次情報のはずですが、
震災ではデマの拡散はあったものの、
一次情報源として機能したはずのソーシャルメディアは、
だれも一次情報源になれなかった原発事故では、
混乱しか起こせなかった。

その後起こった、
既存メディアを巻き込んでのデマや、
リアリティのない福島や東北に対する罵倒。

受けて側の能力を重要視してきたから、
「情弱」なる言葉が、
軽蔑の言葉として使われることになります。

おそらくほとんどの人は、
情報を選別する高度な能力を持てません。

情報を、受けて側で判断しろというネットのあり方に、
今ほど懐疑的になった事はありません。



by evergreen (2011-06-13 04:26) 

坊や

オー〇〇教、一斉捜査隊先頭にカナリア居ました・・
大衆に判断力付けさせないと企む、大きな大きな力。
by 坊や (2011-06-13 15:26) 

鋭理庵

官房機密費の毒饅頭を食らったジャーナリストが所属する殆どのマスメディア、頼りの犬あっち行け~の解説者も微妙にポイントを避けている。だからと言って、自然と戯れていても空しい。若かりしころの、あの全学連のような、世直しのエネルギーが、昨今の道路にへたり込んでいる若者には無い!だから、当然、彼等に明るい将来は無いように思える。もちろん残り少ない余命の自分にも...
by 鋭理庵 (2011-06-14 02:28) 

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