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冬の鴉 [gillman*s park]

冬の鴉
 
DSC05095.JPG
 
 この冬はほとんど毎日と言ってよいくらい公園に散歩に行った。おかげで今までにない程冬の光景を楽しむことができたのだけれど、その中でも裸になった樹々の素の姿の美しさに心を奪われた。そしてその素になった樹に独特の叙情を加えるのが、枝にとまっている鴉(カラス)なのだ。

 この枯れ枝(実際には枯れてはいないのだけれど)に鴉の図柄は昔から多くの水墨画でも描かれ、ぼくが好きな版画家の小原小邨の版画にも、雪の積もった枯れ枝に鴉がとまっている「雪中の鴉」という名作がある。また俳句で言えば自由律俳句の種田山頭火には鴉の句が多いことでも知られている。

 ■ 鴉啼いたとて誰も来てはくれない (草木塔/柿の葉)
 ■ 鴉ないてわたしも一人 (草木塔/鉢の子)
 
 山頭火は山野を行く行乞の旅の途中で頻繁に鴉の姿を目にしたはずで、そのたびにその姿に自分の境遇や心情を投影させた句を読んでいる。幼少の頃、母の入水自殺を目撃してしまったことに始まり、父の放蕩によるその後の実家の没落そして弟の自殺と人生の奈落へと山頭火を引きずり込む運命に抗う術が彼にとっては俳句と酒だった。その彼が全てを捨てて行乞の旅に出て見つけた唯一の旅の友が鴉だったのかもしれない。

また、この光景で思い起こされるのがシューベルトの歌曲「冬の旅」のなかの一曲「カラス(Krähe)」で、この曲でも鴉は旅人についてまわっている。

Eine Krähe war mit mir
Aus der Stadt gezogen,
Ist bis heute für und für
Um mein Haupt geflogen.
一羽のカラスが僕と一緒に
街からやって来た
それから今日までずっと
僕の頭の周りを飛んでいた
 
 「冬の旅」の鴉は死を暗示していてシューベルトの短い人生を思わせるところもあるけど、この歌でも彼は鴉に友達のように語りかけており、必ずしも不気味な存在とはしていないと思う。今、公園ではこれらの樹々は青々として緑のドレスで着飾っている。風が吹くと葉がこすれる音がして、それはいかにも春のメロディーにも聞こえる。
 


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 *山頭火の場合カラスには「鴉」という字を使っています。普通は「烏」の字の方を使うことが多いのかもしれないですね。「烏」の方はカラスの形から来た象形文字だが、「鴉」の方は漢字の「牙(ガ)」の方がカラスの鳴き声を現す擬声語らしいです。

Kraehe.jpg

 *公園で撮った今の時期の鴉です。梅に鶯、桜に鴉。(笑) 何だか不釣り合いな感じもしますが、実はあの小原古邨「花鳥獣図・桜に鴉」という素晴らしい絵を残しています。とにかく鴉は絵になる鳥なのです。


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コメント 2

coco030705

こんばんは。
小原小邨の「花鳥獣図・桜に鴉」を観てみました。思っていたよりカラスが桜とマッチしていて、かなりきれいな絵でした。カラスは黒くて大きいので、人間に嫌われてかわいそうだなと思います。かく言う私もどちらかというと、苦手です。
小原小邨の猫、とても可愛いですね。ネズミを捕まえたり、金魚を狙ったりしているいい絵がありました。この人は猫好きな画家なんだなと思います。
by coco030705 (2021-04-05 21:18) 

ナツパパ

烏は賢いですね、家の周りに彼らを見ているとホントそう思います。
それに野性ですから、時にとても残酷で、それは当たり前のことなのですが、
目の当たりにすると、好きになれなくなります。
なんとか折り合いをつけてくれないかなあ、とも思ったりするのですが。
by ナツパパ (2021-04-06 09:07) 

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