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東京バラード、それから [Ansicht Tokio]

東京バラード、それから

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 ■ 東京バラード、それから

   東京では 空は
   しっかり目をつぶっていなければ  見えない
   東京では 夢は
   しっかりと目をあいていなければ  見えない

    (谷川俊太郎 「東京バラード、それから」巻頭の詩)

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  たかだか七十数年の人生だけど、今まで東京が大きく変わる節目を何度か目にしてきた。毎日少しづつ変わっているから余り気が付かないのかもしれないけれど、一定の期間を置いて見るとその変化の大きさに驚く。その中でも全体が短時間に大きく変わっていった時期というのもあるような気がする。

 ぼくは勝手に「土の時代」と呼んでいるのだけれど、ぼくの子供の頃は東京でも自分の身の回りのどこにでも「土」があるのが当たり前だった。小津安二郎の「東京物語」に出てくるような下町の千住に住んでいたんだけれど、自分の家の前も含めて身の回りはどこも土の地面ばかりだった。道路も敢えて舗装道路と言わない限りそれは砂利道か踏み固めた土の道のことだった。雨が降ればぬかるみになるから長靴は必需品だった。

 そんな状況が大きく変わってきたのはやはり1964年の東京オリンピックあたりからだと思う。と言っても目に見える急激な変化は都心周辺が主で下町に「アスファルトの時代」がやってくるのはそれからずっと後だったと思う。ぼくが結婚してからずいぶん経って下町から少し離れた東京の縁(へり)に引っ越してからも雨が降ると家の前の道がぬかるみになる状態はしばらく続いていた。

 それでも変化は着実に進んで、気が付いたら身の回りで「土」を目にすることが無くなった。近所の公園も最初は水たまりのできる散歩道があったのだが、今はそれも舗装されてしまっている。そして気が付くと東京全体から「土」が姿を消して、地表は固い鎧のような舗装材に覆われて「アスファルトの時代」になっていた。


 最近放送されているNHKスペシャル「東京Reborn」のシリーズをみていると、これから東京はさらに大きな変化をとげるようなのだ。都市は湾岸ベイエリアといわれる東京湾側に浸潤し、大深度地下と超高層という三次元の広がりをみせてゆく。この都市は今、「土の時代」から「アスファルトの時代」を経て、「モグラの時代」かつ「鳥の時代」へと移りつつあるようだ。

 しかし、心配なのはそこには新宿や渋谷や湾岸地域といったエリアごとのデザインはあっても東京全体の構想といったものが見えてこない。かつて、ウィーンはちょうど江戸から明治に変わる頃ハプスブルク家の統率の元、不要になった城壁の跡にリング通りを創り、リング内の公共の建物を一新する大改造を行い今の姿になっている。パリも江戸末期にナポレオン三世の元、確たるグランドデザインに従ってやはり大改造がなされて今日に至っている。

 もともと東京は江戸時代に徳川家康が壮大な構想の下に作り上げた計画都市でもあった。そして大正時代の関東大震災の後、五藤新平が東京大改造をデザインし着手したが、これは未完に終わってしまった。ある意味では今の東京は一つのコンセプトで設計するには巨大で複雑な生き物に肥大化してしまったのかもしれない。

 「東京Reborn」は未来に対応する壮大な実験なのかもしれない。新たなエネルギーを秘めた世界に類のない都市を実現しようとしているようにも見えなくはないのだが、東京を今も「故郷」として愛している人間にとっては、それは何ともリスキーでいろんな人間が好きなようにいじくりまわしているようにも見える、というのは年寄りのひがみなのだろうか…。

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テリー

東京は、あまりに、巨大化してしまい、一つのコンセプトで、設計できる状態では、なくなりましたね。
by テリー (2019-03-06 13:26) 

JUNKO

果てしなく変貌していく姿に一抹の不安を感じます。でも、古い暮らしがまだまだ残っているのを思うとほっとします。
by JUNKO (2019-03-06 16:19) 

coco030705

東京は好きなのですが、行くとちょっと疲れます。あまりに人が多すぎるからです。大阪に戻ってくるとホッとします。でも、大阪も変わろうとしてますので、その先行きが心配です。

by coco030705 (2019-03-06 19:29) 

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