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下町の時間 Gaica Camera [下町の時間]

下町の時間 Gaica Camera

 僕の手元に一台の古いカメラがある。僕は母方の叔父が買ったものだとずっと思い込んでいる。いつ頃から、どういう経緯で僕の手元に来たのかは、はっきりとは覚えていない。僕の親父は車は好きだったが、親父がカメラで写真を撮っていた記憶は余りないし、兄貴もまだ子供だったからこんなカメラを買えるはずがない。当時から新しもの好きだった叔父のことだから、きっと叔父がこのカメラを買ったのにちがいない。僕はその叔父が大好きだったが、その叔父も昨日逝ってしまった。叔父を偲んで少しこのカメラの話をしてみよう。

 このカメラの外装は本革張りで、蛇腹状のレンズを畳み込むと下の写真のようにコンパクトに折りたたむことが出来る。確か別に皮のケースもあったと思う。その形もよく記憶している。子供の頃に何回も目にしている。いずれにしても、このカメラは我が家の時間を見つめてきたし、僕の写真への憧れも作ってくれた。

 カメラの名前はボディーとレンズに「Gaica
」と書いてある。なんとなくLeicaに似ているな。
でも、こうやって折りたたんで持った感じは、本皮の感触もあって悪くない。本当はどんなカメラなのかはずっと分からなかったが、最近インターネットのおかげで、Gaicaというキーワードで調べてみたら一件だけヒットしてその概要を知ることが出来た。

名前はセミガイカ、ガイカとは凱歌のことらしい。リコーカメラ製品となっていたが、OEM購入機と注があったので実際は他のメーカーの製造だったのかもしれない。
発売時期は1940年とある。1940年といえばまだ戦争の最中だから凱歌という勇ましい名前をつけたのだろうか。でも戦争中にこんなものを買うゆとりはないはずだから、買ったのは戦後なのだろうと思う。
 フィルムの大きさはブローニー半裁判(57x45mm)。この通称セミ判は当時のカメラの画面サイズの主流であったらしい。カメラのデザインはドイツツァイスのセミネッターをコピーしたものだということだった。
シャッター部分はドイツ製「バリオ」を使っている。
バリオ・2枚羽根でT・B・25・50・100・175。
フィルムはブローニー120フィルムを使用している。フィルムを巻き上げると、後の二つの赤い丸窓のところにフィルム番号が出たのを覚えている。
 レンズはガイカアナスチグマットの75mm、F4.5、3群3枚構成。フォーカスは前玉回転、目測フォーカスだ、カメラの上部の折りたたまれているファインダーを立てて覗くようになっている。
このカメラは僕の宝だ。

■■■■


 この間、押入れを整理していたら古い煎餅の缶に昔の写真のネガが沢山入っているのを見つけた。ほとんどは昭和二十年代から三十年代の写真だから、もう五十年以上前のものだ。
その中にはこのGaicaで撮ったと思われるものも沢山入っていた。


長い時間が経っているため、中には映像が薄れていたり、一部が消えかけているものもある。試しに一枚をスキャナーにかけてPCに取り込んでみた。それからレタッチ・ソフトでゴミを取り除いたり、露出調整をして映像をある程度復元してみると、そこには五十年前の時間が浮かび上がってきた。

 

 撮影されたのはネガケースに書いてある数字からみると、昭和三十年頃らしい。場所は僕のうちの縁側だ。写真の映像を客観的に突き放してみると「下町の群像」という感じがする。みんな昭和三十年代の顔をしているなぁ。時代の枠組みというのは恐ろしいものだ、その時代にはその時代の顔がある。
木村伊兵衛のこの頃の写真集を見ても、不思議と皆こんな顔をしている。五十年の歳月は日本人の顔つきも変えてしまったのか。

 
 僕が育ったのは千住。毎日、お化け煙突を見て育った。僕の住んでいたのは北千住で、荒川を越えた川向こうの梅島には当時あのビートたけしが住んでいた。歳も彼と同い歳だ。あっちがペンキ屋の倅なら、こっちは菓子屋の倅だ。
地方から東京に出てきた人にとって、故里の山や川が懐かしいのと同じように、僕にとっては下町の露地も故里の山河のように懐かしい場所だ。

これから、少しづつ煎餅の缶の中で定着された下町の時間を取り出して行こう。大好きだった叔父さんとの時間も含めて…。
                                                                   
*「下町の時間」というカテゴリーで
少しこのシリーズを続けてゆこうと
思っています、よろしく


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GUSUKO-BUDORI

不思議な安心感を覚える写真です。
子供の頃、見上げた大人の顔が写っている。
こんな顔の大人になりたかったのに…
by GUSUKO-BUDORI (2005-11-08 00:13) 

おはようございます
gillmanさんのところもご不幸続きで叔父さま、ご愁傷様でした。
懐かしいお写真ですね。わたくしのこのパソコンの部屋にも昭和21年に写した、実家のみんなの家族写真を飾っています。やはり似た顔つきをしていますよ・・・(^-^)
by (2005-11-08 05:30) 

gillman

やっぱりそうなんですね
僕は木村伊兵衛の写真集や明治の写真を見て
その時代、時代の日本人の顔があると思ってました
by gillman (2005-11-08 07:46) 

Silvermac

私のお宝は60年前に物置から見つけ出した、コニシロクのパーレットでした。それがカメラと写真の始まりでした。古いネガをスキャナーで復元すると意外な人、物、光景が見られますね。
by Silvermac (2005-11-08 08:40) 

lingnam

母の実家にある古いアルバムを思い出してしまいました。
昭和三十年代の家族集合写真が殆どで、雰囲気がこちらの写真と
とてもよく似ています。技術の向上のおかげで古いネガから新しい
発見があるのですね。
by lingnam (2005-11-08 10:17) 

HAL

今でも使えるのかな?
昔のカメラを使うと、今でも当時の雰囲気を出せるかもね!
by HAL (2005-11-08 12:41) 

mippimama

懐かしい写真見たような気分です。
子供の頃こんな風に縁側でみんな集まって写真を撮った事思い出します。
カメラは覗きこんで、画像を確かめて撮るような箱形のカメラだっとおもいます。
by mippimama (2005-11-08 17:47) 

絵になるカメラだ。
by (2005-11-08 19:27) 

かめむし

親父の職場が千住あたりだったせいか、
子供の頃よく連れられて行きました。東武線に乗って。
この時代に生きていたわけではないのですが、とても懐かしい気がします。
by かめむし (2005-11-08 19:59) 

mami

こんばんは。
チャーちゃんに続いての悲しい出来事。心中お察し申し上げます。
叔父様との思い出深いカメラ、大事にしてください。
お越しいただきまして、ありがとうございました。m(_ _)m
by mami (2005-11-08 20:43) 

ナツパパ

祖父の家が葛飾高砂にありました。
京成電車から眺める「お化け煙突」は子どもの頃の懐かしい思い出です。

祖父の家で、gillmanさんの白黒写真と同じように、祖父伯父伯母と撮った写真が、わたしの手元にも残っています。
アルバムを持ってきて、今、その写真を見ています。
色々な思い出が、どっと浮かんできました。
こんなひとときを作ってくださった、gillmanさんの記事に感謝。
by ナツパパ (2005-11-08 20:53) 

shareki

叔父さまのご冥福をお祈りいたします。
昔の写真は味わいありますね、デジカメは便利で手軽で良い面も多いですが、
こういう味はなかなか出せないかなぁと思います。
50年後は、今の写真がどうなってるか・・・
by shareki (2005-11-08 22:36) 

IXY-nob

貴重な歴史の証言ですね。今はもう撮ることはできないのですか?そういえば実家にあった二眼レフは何処へいったのだろう・・・親父に聞いてみようっと。
by IXY-nob (2005-11-08 23:04) 

kane

50年以上前も前に撮影された写真のネガ、貴重ですね。
今あるデジタル化された写真のデータ、50年後まで残すことが出来るのかと思うとちょっと不安です。
by kane (2005-11-08 23:32) 

ccq

自分のカメラたちはここまで長く残っていないだろうなぁ。
by ccq (2005-11-08 23:35) 

としぽ

家にも似たようなカメラが有ります。おじいさんの形見ですが、もう撮る事は
出来ないですが。
by としぽ (2005-11-08 23:55) 

歴史を感じる一こまですねw
by (2005-11-09 10:00) 

はなこさん

素晴らしい宝物ですね。
by はなこさん (2005-11-09 15:29) 

atom

今のカメラ以上に洒落たデザインですね。
このカメラで写真は撮らないんですか?
by atom (2005-11-09 23:44) 

gillman

残念ながら、肝心のシャッター部分が破損していて使えない状態です
それにロールフィルムもなかなか手に入りにくいようです
by gillman (2005-11-09 23:56) 

山猫庵

まったく見知らぬ私が見ても
なんだかとても懐かしいキモチになれる
素敵な家族写真ですね(^^)
by 山猫庵 (2005-11-10 04:13) 

sera

古いカメラ、よく取ってありますね~宝物です♪
Gaicaで撮った写真は復活して、きれいですね~大変な作業でしょう、、、
デジタル化して、取って置くのが安心♪
by sera (2005-11-10 08:33) 

ヴォイス

戦後動乱の時期を経てオリンピックへ向けて歩き出した頃ですね。カメラのレンズの先には撮り終えていない被写体が見えてくるようですね。
by ヴォイス (2005-11-10 10:39) 

gillman

今、公開されている映画「Always 三丁目の夕日」の舞台はやはり昭和三十年です
この年東京タワーが着工されました
by gillman (2005-11-10 10:42) 

ziziblog

仕事の都合で、しばらくの間、訪問はnice!だけにさせていただきます。
by ziziblog (2005-11-10 17:22) 

みつなり

実家にも亡きオヤジが使っていた古いカメラがあるって母親が行ってました。
こんど帰ったらもらってこようかなあ。Fマウントだったらいいんだけど。
by みつなり (2005-11-10 18:19) 

櫻

gillmanさんの写真にはいつも優しさを感じるんですが
このカメラを使っていたおじさんから、カメラと被写体への接し方を
うけついでいるようにも感じますね。
昭和30年代のシロクロ写真にはどこか胸が痛くなるほどの懐かしさと
優しさを感じます。
by (2005-11-10 22:14) 

ecco

カメラって思い出の品として
いいよね。
昔からどこか貴重品のイメージがあって。

私の大好きな前田真三の写真展見にいったときにも
愛用のカメラが展示してあったっけ。
by ecco (2005-11-10 22:48) 

gillman

前田真三みたいな、清冽で壮大な写真が撮れたらいいなぁ
僕は息子さんの写真も好きですね
by gillman (2005-11-11 15:20) 

ziziblog

蛇腹式のカメラを父が持っていました。父が逝ってそれを私が手にしたのに、それがない。どうしたのだろう? 在りし日の羽目板の我が家に若き父が写っています。中学時代でしょうか?そのカメラで私が撮ったものです。
日本人の顔があっという間に変わりましたね。
by ziziblog (2005-11-16 06:02) 

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